「STAR ISLAND」プロデューサーが明かす海外展開の裏側。各国からオファー相次ぐ

「STAR ISLAND」事業プロデューサー、エイベックスの坂本茂義氏(写真=小田駿一)


ノンバーバル、都市にローカライズ


エンターテインメントは激変しています。エイベックスという会社は元々ダンスミュージックレーベルから、J-POPのメインストリームを歩んできて、プラットフォーム事業も展開しています。

マーケットは日本からアジアにシフトしてきている中、僕らもグローバルコンテンツを海外に持っていかないと厳しい。実際、日本から世界に進出しているコンテンツはやはりアニメ、アイドル、伝統的な歌舞伎や能はありますが、その都市にローカライズして成功している例はほとんどないと思っています。

STAR ISLANDの魅力としては、まず言語に依存しないノンバーバルコンテンツであるということです。またグローバルでのメインコンセプトはありますが、都市ごとにローカライズさせていくことの優先度が高いと思っています。「フロム・ジャパンだ」と押し付けがましいことはしません。シンガポール、サウジアラビアなど都市ごとにオリジナルのSTAR ISLANDができていくのがいいと思っています。

アーティスト不在、エイベックスの「新規事業」としての可能性


また、STAR ISLANDをエイベックスのライブ戦略の新たな柱として考えることもできると思います。

ちょうどSTAR ISLANDのプロジェクトが始まった頃、エイベックスでは新たにロゴを変えて、タグライン「Really!Mad+Pure」も新たに制定した時期でした。STAR ISLANDを契機に、社内では「こういう新たなエンターテインメントを作っていきたい」というベンチャーマインドが活性化したと思います。

STAR ISLAND
PR事務局提供

また、アーティスト中心ではない分野のエンターテインメントにエイベックスが参入したというのが、個人的には新たなチャレンジだと思っています。

これまでエイベックスがやっていたコンサートは、アーティストがいて初めて成立しているコンサートでした。アーティストがいて、絶対的なファンがいてくれて、その方々が見に来られるという前提でコンサートが成立しているので、比較的興行としては「読み」やすい。「これぐらいのキャパシティでこれぐらいの公演日数でいいよね」と会場も日数も構築しやすい。チケットやグッズの適正価格も設定しやすいものでした。

STAR ISLANDは未知の領域でした。「そもそも花火って無料だよね」という常識をぶち壊して、チケッティングをやっています。それでは何が適正価格なのか。コンテンツをよりリッチにして体験価値を上げていく戦略も可能ですし、花火の特性上、会場周辺からも見ることができます。それをまた違う形のビジネスにも展開できます。

周辺の空いているエリアを貸し切って別のイベントをやることもできるかもしれません。花火が見える飲食店さんが、その日は花火が見えるディナーだということでチケットを売ることもできる。本当に身近なことからいろんなことができるのが花火の強みだと僕は思っています。

アーティストがドームツアーをすると、5万人や7万人ぐらいの人が一日で集まります。ホテルは全部売り切れる。ライブ前後に飲食店がファンでごったがえす。ある意味、街がアーティストのフェスみたいになるわけですよね。それってすごいなと。

実は花火も同じことで、日本各地の花火では大型のもので数十万人を動員するものもあり、街も盛り上がります。これを僕らなりに解釈して、街ぐるみのビジネスにトライしても面白いかなと。会社としてもライブのあり方が変わるんじゃないかなと思っています。

エイベックスだけが儲かる仕組みにはなっていませんし、まだまだ採算的には厳しいです。多くのクリエイターや花火師が参画し、コストを圧縮しながら最大のパフォーマンスを出せるよう努力しています。多くの方に魅力を感じていただくことで、ゆくゆくはみんなに還元したいと考えています。そういう意味でも、STAR ISLANDでいろんなトライアンドエラーをしています。

「ULTRA JAPAN」の例もありますし、エイベックスはもはや日本の音楽会社ではなく、グローバルに展開していくエンターテインメントの会社になっていきます。実はSTAR ISLANDを見て、エイベックスに入りたいと言う学生が出てきています。採用にもつながっているんですよね。
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文=林亜季、写真=小田駿一

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