小泉:そういう意味では、メルカリのベースとして、なるべくシンプルに設計して、より多くの方に使っていただくことが前提にある。便利だからといって機能を付与しつづけると、お客様をどんどん制限してしまうことにもつながるんです。それは当初から意識していたように思います。
塩田:つまり運営側が「お客様はこういう体験を望んでいる」と決め込まない、ということ。
小泉:そう、定義を明確にしすぎないというか、「少しでもお金が稼げればいい」人もいれば、「物を捨てずに売るってエコだよね」と考える人もいる。インターネットの良さは「個人がエンパワーメントされる」ことじゃないですか。だからこそ、その表現の幅はなるべく広く担保したいし、そういうプラットフォームこそが多くの方に支持されると思うんです。
写真=メルカリ提供
塩田:僕の場合、コンテンツを作る側だからかもしれないけど、広いターゲットを意識してしまうと“尖った部分”がなくなってしまう気もしていて、バランスを取るのが難しいんですよね。
小泉:確かに、コンテンツとプラットフォームをつくるのとでは、根本的な違いがあるかもしれない。ただ、プラットフォームの場合、自分たちが意図しない使われ方をして、結果的に文化になっていくときがある。それに対してしっかりと「そういう使い方もあるよね」と、エンパワーしてあげることが重要なんです。
塩田:その際、意思決定はどうしていますか? 会議で決めようとすると、ユーザーのデータやアンケートに基づいて決めてしまいがちなところもあるじゃないですか。
小泉:当然、自分たちで仮説を立てたうえでユーザーインタビューもABテストもしますし、データドリブンで動くメンバーも必要です。ただ、最終的にはお客様をどんな未来へ導いていきたいのか、そこにはどんなビジョンやバリューを大切にしているのかが重要になってくるのだと思います。
たとえば、メルカリには「Go Bold」「All For One」「Be a Pro」という3つのバリューがありますが、「それってGo Boldじゃないよね?」と、無難なプランを選ばないように、意思決定の指針になっています。ただ、バリューの定義はわざとフワッとさせているというか、言葉を決めすぎないようにしている。
塩田:なるほど。
小泉:覚えやすい言葉だし、受け取り手が自由に使えるように、一人ひとりが自分自身の判断や解釈を加えられるようにしているんです。
塩田:厳密に定義しすぎると、「これが正解だ」と思考停止しちゃいますからね。人によって表現も意味合いも違っていると、自ら思考しつづけることにつながる。
実はまさに、僕らにとっての「ハートドリブン」も同じなんです。よく取材で「ハートドリブンとは何ですか?」と聞かれますが、あえて曖昧に答えています。結局のところ、会社を経営するって、メンバーに対して「あなたにとって大切なのは?」と、問いかけつづけることだと思うんです。