しかし、すべての人にこの現象が起こるわけではないため、全員が同じようにお酒に強くなるわけではありません。さらに、シトクロムの酵素群の働きには個人差があり、なかには、シトクロムがアルコールを分解すると、かえって肝臓に害を与える物質を出してしまう症例も一部報告されています。
このような悪い面もあるため、「酒を飲んで鍛える」という考え方に浅部先生は警鐘を鳴らします。
「このようなメカニズムは確かにありますが、あえてやる必要はないですし、いちど鍛えたらずっと強いというわけではありません。たとえ鍛えても、お酒を飲まなくなるとまた徐々に下がっていきます。恐らく、日常的にアルコールが身体に入っているから、それに対応して変化しているだけだと思います」
「鍛えてお酒に強くなる」と聞いて思い浮かぶのは、プロレスラーや力士のような筋肉隆々で体格の良い格闘家。「ビール瓶を1ケース空けた」や「ウォッカをがぶ飲みした」など、酒豪エピソードには事欠きません。実際に格闘技をやって身体を鍛えるとお酒に強くなるのでしょうか?
「飲む人が目立っているだけで、格闘家でもアルコールが体質的に合わない人は飲んでいないと思いますよ。身体が大きい人は肝臓も大きいので、より多く飲めるというのはありそうですね。プロレスや相撲をしているから強くなるのかというのは、正直分からないです」と、浅部先生。
身体が大きいと肝臓も大きいので、時間当たりのアルコール処理能力はやや高くなる。ただし、それでも体質的に弱い人はいて、そういう人たちはいくら鍛えてもお酒が飲めないということなんですね。
ここまでの話をまとめると、「たくさん飲めば強くなる」は全員に当てはまることではなく「もっと飲んで鍛えろよ」といって人に飲ませたりするのは間違いなく危険な行為ということ。身の回りにそういう人がいたら注意しましょう。
参考文献◎『酒好き医師が教える最高の飲み方』(著者:葉石かおり、監修:浅部伸一/日経BP社)
最新医学のエビデンスをもとに、お酒の正しい飲み方を指南した一冊。お酒の楽しみ方はもちろん、健康や美容との関係など、お酒を飲む人が抱く素朴な疑問に回答を示し、多くの読者から高い評価を得ている。