一般的なスポンサーアクティベーションは、ユニフォームの胸ロゴやスタジアムの看板に社名を出すだけだった。しかしDMMは違う。スポンサーアクティベーションのメニューを細かく出し、かつ小口スポンサーであってもさまざまなメリットを得られるようカスタマイズにも柔軟に対応する。「スポンサー企業様が求めていることは千差万別。個別にヒアリングした課題を解決できるスポンサーアクティベーションを提案しています」と緒方は言う。
DMMがスポンサーアクティベーションを自由に提案できる理由が、ベルギーに根付いているもうひとつの文化にある。個人によるスタジアム経営だ。日本の場合は個人ではなく自治体が運営している場合が多い。そのためスタジアムを利用したビジネスを展開するハードルが高い。
一方、ベルギーのサッカーリーグでは個人によるスタジアム経営が少なくない。STVVもそうだ。前クラブオーナーであり現在もホームスタジアムのスタイエンを所有するローランド・ドゥシャトレはビジネスへの理解が深い。彼はかつてヨーロッパの各リーグで合計5つのクラブ経営をしていた、“ベルギーのトランプ”と呼ばれる生粋のビジネスマンだ。クラブの利益につながるなら、スタジアム、チーム、選手、街全体に協力を仰げる。このような最高のスポンサーアクティベーションの土壌がベルギーにはある。
クラブ主導で町の飲食店に営業活動。献身的なスポンサーアクティベーション
STVVのスタジアムには商業施設が数多く併設されている。ホテルやスーパー、美容室、おもちゃ屋など店舗がジャンルレスに展開。「大げさに言えばイオンモールの真ん中にサッカーのピッチがあるイメージです」と緒方は語る。ドゥシャトレ自身、「365日、スタジアムを稼働させるには?」と考えているため、DMMはスタジアムを利用したスポンサーアクティベーションを提案できる。場合によっては最新技術やサービスの“実験場”として使えるのだ。
例えば、スタジアム全体に最先端のIT技術を導入できる。「その結果、推進されているのが技術の実証実験の場としての役割です」と緒方。クラブ運営や選手にIT技術を積極的に投入できるため、スポーツテクノロジーを研究する企業がウェアラブルテクノロジーを選手に装着してもらい使用データを集めたり、試合観戦のチケットを電子化する技術をIT企業が試す場としても機能する。
さらにSTVV主催で「Japan Day」というイベントをスタジアムで開催。食品関連のパートナー企業が提供する日本食や日本産食材を試合観戦者に対し無償で提供し、PRすることを目的とした催しである。さらに、DMMのスポンサーアクティベーションは想像以上に献身的だ。「クラブが『日本産食材サポーター店認定団体』として、ベルギー国内の日本産食材を使う飲食店の普及、促進活動をしています」と緒方は言う。地道な活動をクラブが率先して行い、日本企業がヨーロッパへ販路を拡大するチャンスを広げているのだ。
さらに、サッカービジネスが根付いているヨーロッパ地域におけるクラブ経営のポテンシャルは限りなく大きい。緒方は見据えるビジョンをこう語る。「サッカーは、世界中に競技者やサポーターがいる巨大なマーケットのスポーツ。日本企業を中心にスポンサーを募っていますが、この動きをアジアに広げます。そしてヨーロッパ、全世界に広げてサッカーを起点に他のビジネスの可能性も拡大できると考えています」。
いつかヨーロッパのトップリーグ挑戦することを夢見る日本人選手の足がかりをつくりながら、DMM自身も泥くさく動き、スポーツビジネスの未来を広げているのだ。
緒方悠◎DMM.com 執行役員 セールスソリューション本部長。2011年DMM入社。アミューズメント関連事業など、数々の新規事業を立ち上げ、当プロジェクトにも始動段階から携わる。