何度でも観たくなる 2019年「裏を返した」映画ベスト3

「アド・アストラ」(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

感心した映画は、必ず「裏を返す」ことにしている。「裏を返す」というのは、粋な世界で使われてきた言い回しで、気に入った女性がいたら別な日にもう一度出かけて相手をしてもらうというような意味だ。

自分としては、初めて食事に出かけた店で、料理が美味しかったら、日を置かずに再訪するというような場合に、「裏を返す」という言い回しをよく用いている。

もちろん映画観賞にしても同じで、良い作品だと思ったら、その記憶が新しいうちに再度観て、本当にそれに該当するか確かめることにしている。2019年は、この「裏を返した」作品が約20本(裏の裏を返したものもある)、そのなかから何度でも観たいベスト3を選んでみた。


1.「たちあがる女」 ベネディクト・エルリングソン監督

火山と温泉の国、アイスランドの映画だ。アイスランドは、北極圏の南端、北大西洋上に浮かぶ小さな島国で、島の中央には「大地の裂け目」と呼ばれる断層があり、雄大な自然が広がっている。筆者も一度だけこの国を訪ねたことがあるが、その肥沃な山野と、ホテルのシャワーから降り注ぐ温泉に感動したことがある。

そのアイスランドの田舎町で、合唱団の講師をしている女性ハットラが主人公だ。実は、彼女は「山女」というコードネームを持つ環境活動家で、自然を破壊するアルミニウム精錬工場に対して孤独な闘いを繰り広げている。

かなり強固な意志の持ち主で、たった1人で、精錬工場へと電気を送る巨大な鉄塔を引き倒そうとする。このシーン、なかなかユーモラスでもある。2018年に日本でも公開された「スリー・ビルボード」(マーティン・マクドナー監督)の、警察署に火炎瓶を投げ込む女性主人公にも通じるものを感じる。


(c)2018-Slot Machine-Gulldrengurinn-Solar Media Entertainment-Ukrainian State Film Agency-Koggull Filmworks-Vintage Pictures

主人公の魅力もさることながら、彼女が工場側のドローンと対峙するシーンもなかなか観応えがあり、物語的にも、後半にあっと驚くサプライズも用意され、とにかく隅々にまで目配りが効いた作品で、「裏を返す」ことで新たな発見がいくつもあった。

劇中の音楽も魅力的で、主人公の立ち回り先には、彼女だけが見えている楽団や合唱隊が現れ、劇伴を演奏する。この楽団に似た絵柄を取り入れた日本のCMも見かけたが、それほど印象が強いシーンでもある。

ラストはなかなか意味深な場面で終わるのだが、全編に地球環境問題へのアプローチが見え隠れしており、メッセージ性もある。とはいえ、エンターテイメントとしても楽しめる趣向となっており、このアイスランド人監督は、今後の作品が楽しみだ。配信とDVDで視聴が可能だ。
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文=稲垣伸寿

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