──アシックスの事業における独自性を教えてください。
アシックスが掲げるスポーツの定義は「健康」です。
アシックスは、1949年に創業者の鬼塚喜八郎が、スポーツによる青少年の育成を通じて社会の発展に貢献することを志して興した会社です。「健全な身体に健全な精神があれかし」という創業理念は、世界中の人々に心身ともに健康で幸せな生活を実現してほしいという私たちの願いそのものを表しています。
その思想が脈々と大切に受け継がれているからなのでしょう。アシックスはビジネス的な視点のみならず、社会性も踏まえながら、人々の健康をサポートしていくことを目指しており、そこが弊社のユニークな点であるとも言えます。
──アシックスは「健康経営」に取り組む姿勢を広く宣言していますが、この思想は、製品づくりにおいては、どのように活かされていますか?
シューズを設計するうえでは、ランナーの能力を最大限に引き出すことに加えて、ランナーを怪我や事故から「守る」ことも重視しています。この考えは、これまで決してブレることなく貫いてきました。ここへのこだわりはもの凄く強い。なぜなら、アスリートたちには、1分1秒でも長くアスリートでいて欲しいからです。
アスリートたちは、たった一度の怪我でスポーツ生命が絶たれてしまうリスクと常に隣り合わせにいます。ですから、そんな過酷な環境から足や膝を守る靴づくりを徹底しているのです。
実際にサッカーのアンドレス・イニエスタ選手やテニスのノバク・ジョコビッチ選手は、30歳を超えた頃から、1番で在り続けるために「靴の選び方」を変えました。彼らが怪我をせず、最高のパフォーマンスを発揮するために、素材選びから一切の妥協はしません。見た目の格好良さは、私たちにとって第一優先ではないのです。
──デザインを押し出すのではなく、妥協をせずに地道な改良を続けていく。まるで、商品を通じてユーザーとコミュニケーションを図っているように感じます。実際にコミュニケーションを取るうえで、大切にしていることは何でしょうか?
不特定多数に向けて呼びかけるマスコミュニケーションは、圧倒的に効率的です。一方で、たった一人の心を動かし、次なる行動へ促すことの重要さも否めません。一人が変わると、自ずとその周りも変容するからです。
広告は信じられないけれど、親しい人の言動に心を動かされた、という人は少なくないのではないでしょうか。だからこそ、「次なる一人」の増やし方は、しっかりと設計して、考え抜いています。
具体的には、定期的にナイトランニングをはじめとするイベントを開催しています。たとえ小規模であっても、その場から何かを持ち帰り、行動してくれる人がいるのなら、大きな意義があると感じています。そんなふうに、私たちにできることを常に考え、コツコツと続けていきたいです。