「元ソフトウェア・オーガナイザーの女性が17年、在籍中に上司からハラスメントを受けていたと明らかにして以来、ウーバーは社会から『ひどい会社』と見なされ、社内もひどく混乱してきました。この状況を180度反転させるため、ダイバーシティーおよびインクルージョンの拡大に向けて最高責任者レベルの専任担当者が不可欠だということになり、私に声がかかりました」
ボーはミシガン大とニューヨーク大のビジネススクールを卒えた後、長らくこの分野の専門家としてアーンストアンドヤングや、エーオンヒューイットでコンサルティングに従事。保険大手のマーシュ・アンド・マクレナンでダイバーシティ&インクルージョン(D&I)担当のグローバル・オフィサーを務めていたところに声がかかり、18年にウーバーにジョインした。
ウーバーのCDIO(最高ダイバーシティ&インクルージョン)責任者、ボー・ヤング・リー
急成長する企業が、拡大の途上で社会的に物議を醸すことは珍しくない。ある段階までは「変革者」として期待を集めていたのに、次の段階では一転、「社会の敵」と見なされることさえ少なくない。ウーバーも例外ではなかった。
09年にサンフランシスコで生まれたこのスタートアップは、スマートフォンという技術プラットフォームと、従来のタクシーへの不満という社会的ニーズをベースとして、配車サービスで急成長。共同創業者の3人は15年、Forbes世界富豪番付に登場するまでになった。
だが、それから2年後の2017年、冒頭でボーも触れた元従業員のブログでの告発が、成長企業のスキャンダルとして大々的に報道される。これが、ウーバーへの評価が世界規模で下り坂に転じる大きなきっかけとなった。
従業員のコカイン使用疑惑、痴漢行為を理由とする幹部の解雇などが続いたほか、ウーバーが大手法律事務所に依頼して行った調査では200件を超えるハラスメント案件が対象となり、結果として20人以上の従業員が解雇された。
10万規模のユーザーを失った
こうしたニュースを受けて、スマホからウーバーアプリを削除しようと唱える「#deleteUber」ムーブメントが起きて10万人規模のユーザーが失われたこともあった。創業者のひとりでCEOを務めていたトラビス・カラニックは、家族の不幸な事故もあったものの、数々の不祥事を背景として17年に辞任した。
当然、社内は混乱をきたし、ボーがウーバーのCDIOに就任した18年3月の時点でも状況は変わっていなかった。そのウーバーについて彼女はCNBCの番組で、「メディアの報道では社内は完全なカオスで、従業員は社内の不平等に悲鳴を上げているとされていましたが、私の目にもそう見えていました」と明かしている。
日本のメディアではウーバーの問題点として、すでにあるタクシー業界への影響やドライバー・配達員の待遇が取り上げられがちだ。最近ではフードデリバリー事業「Uber Eats」で配達員の処遇やデリバリーの品質に疑問が出ている。