役割が変わるごとに、自分を変えられる意識の持ち方
──ゼロから1を作り出す“起業家”と、1を10にしていく“経営者”とでは、求められている能力、役割、スキルセットが違うと一般的にいわれています。元榮さんが起業家から経営者としてステップを上がっていく中で、役割やスキルセットが変わったと思うことはありましたか。
ありますね。やはり求められることは変わっていきます。
ゼロをイチにするところでは、自分自身がイノベーティブに、作りあげることを大事にしていました。
みんなを奮い立たせて事業を推進し、売上を作ることも自分が中心にやっていきます。
しかし、組織が大きくなるにつれて権限移譲が必要になります。メンバー一人ひとりが、いきいきと活躍できる環境作りや、理念や道徳を説くことが自分に求められるようになっていくわけです。
実際に、「感謝と謙虚な気持ちを忘れるな」と、月1回の社員総会では必ず話をするようにしています。
どちらかといえば、今の私の役割は語りかけること。あとは社員が自分達の力で事業を推進できるところにまで成長することができました。
──役割の変化に戸惑うことはありましたか。
私自身は役割が変わることに慣れているんです。弁護士として求められること、起業家として求められること、政治家として求められることとそれぞれの役割を全うしてきました。
それぞれの役割において何が必要なのかを知って、そのために自分をつくり変えるということが比較的得意なのだと思います。
もしかしたら、自分の役割を決めすぎる経営者の場合には、役割のチェンジに戸惑いを感じるかもしれませんね。
私は、目的のために生きているので、目的意識の中で、いくらでも自分を変えていくことができるのだと思います。
掛け算が自分独自の感性を作る
──元榮さんが得意とする複数の役割を持つということは、事業にどんなインパクトをもたらしていますか。
多面性を持つことは、事業にも有効だと考えています。多面的な自分の掛け算をしていくことで、自分にしか持てない感性が生まれてきますから。同じ事実を見ても、感じ方が他者とは全然違ってくるわけです。
掛け算が増えていけばいくほど、同じ世の中に生きていても、他とは違う競争力を持つことができると実感しています。
私は弁護士で起業家という掛け算からスタートしましたが、政治家など掛けられるものはどんどん増えていっています。
自分しか知らない感性を持っている。そんな強みを活かしながら、弁護士ドットコムのサービスをさらに進化させていきたいです。
──掛け算と言えば、元榮さんは最近、新潮新書から「『複業』で成功する」というご著書を出版されましたね。この本のテーマはなんでしょうか?
働き方改革の推進によって、従業員の「副業」を認める企業は増えてきました。とても素晴らしいことだとは感じているのですが、副業ではどこか片手間で行なうアルバイトといった印象が拭えず、物足りなさを感じていました。
私は、弁護士、IT企業の経営者、そして政治家と3つの本業を持っています。本業の傍らで片手間にアルバイトを持つのではなく、どれも本気の本業を複数持つことで生み出す相乗効果を実感しています。この新しい働き方を、私の実体験を元に解説した一冊です。
企業、従業員双方に大きなシナジーを生み出せる「複業」が、どんどん浸透していったらいいなと感じています。