「ザンギリ」は小さな町の理容室のひとつでした。当時、10分1000円という価格破壊を起こした理容室が登場したことで、従来の業態の理容室は苦境に追い込まれます。そのなかで私はザンギリに対して「どんな付加価値を提供するのか」を考え、弁証法の発想でさまざまな施策を打っていきました。
そして、そのことで集客数を上げることができました。拙著『小さくても勝てます』(ダイヤモンド社)は、ザンギリに対して行った経験を通じて、数々の経営学的手法をまとめたものです。今回は、このザンギリについて、その「失敗」を例にお話しさせていただきます。
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弁証法的展開で失敗を成功に導く
どのようなビジネスにも失敗はつきものですが、ザンギリも失敗した経験があります。
ザンギリのアドバイスを始めて5年目の秋、就職活動の学生をターゲットにフォトスタジオを始めようとしたことがありました。デジタルカメラで証明写真を撮影し、お客さんにデータで送るというサービスです。
フォトスタジオを始めるためのコストは、家賃とカメラマン、ヘアメイク代、そしてカメラ、照明機材、パソコンとソフトです。しかし、ヘアメイクや撮影をザンギリの店内で行えば家賃はかかりません。撮影も、カメラマンを雇わず自分たちで行えば、あとは機材をそろえるだけ。
そこで、まずは50万円でカメラなど機材を購入し、店内の片隅に組み立て式の撮影スタジオを作ったのです。そして、理容室を訪れるお客さんに案内をしようとしたのでした。しかし、結果は失敗します。撮影をしてほしいというお客さんがなかなか現れなかったのです。50万円の機材が無駄になってしまいました。
ところが、この経験があとになって大きな成長のもととなります。ここで、「『正』と『反』を止揚させてより高次の解決法を見出す」という弁証法の出番です。
私は現状のザンギリを「正」、失敗した経験を「反」とし、そこから止揚させました。つまり「『理容室』と『撮影機材』からどのようなものが生み出せるか」を考えました。
そして、「お客さんを撮影する」代わりに、撮った写真をヘアスタイルのフォトコンペに出すことを思いついたのです。また、コンペを目標にすることで、若手の教育や外部へのアピール、理容室を広める広報にもつながりました。
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