自分のこと、日本のことを知るために「アウェイ」を増やそう


長く生きていると“アウェイ”が少なくなってくる。アウェイが少ないと人生は楽だが、アウェイが少なくなると人は保守化し、頭が固くなる気がしている。みずみずしさを失い、ボケるのも早い。起業家や政治家が比較的長生きなのは、刺激が多くアウェイの場面になることが多いからであろう。私も今後はどんどん会社でチャレンジをしたり、海外に出たりしてアウェイを探していく必要がある。今回の旅の目的はそれだ。

さて、パリでミシュランガイドの3つ星レストランを2軒はしごしてから、モロッコへ向かった。モロッコはマラケシュ、フェス、シェフシャウエン、メクネス、カサブランカを回った。ガイドと運転手とで1500kmの行程である。赤い街、青い街、白い街など街には本当に文字通り、「カラー」がある。イスラムの教えは生活に根ざしており、99%の人がイスラム教である。

1日5回お祈りをするが、どこにいてもお祈りすべき時間に、コーランの一節が流れるお知らせがスピーカーで街中に響きわたる。時計がなくても、大体の時間はそのスピーカーでわかる。

どこの街も城壁に囲まれている。ガイドによるとモロッコはポルトガル、スペイン、エジプト、フランス、ドイツなどと激闘を重ねている。確かにジブラルタル海峡をはさんで、スペインとはすぐ近く。スペインやポルトガルとはイベリア半島をめぐる戦いを何世紀にもわたって行い、モロッコの北半分はスペインやポルトガルに攻め込まれたりしていた。

その結果、文化の融合が進み、アラブ文化のようなヨーロッパ文化のようなミックスカルチャーの魅力的な街になっている。カサブランカの街はヨーロッパの街に迷い込んだ感じでもあるが、レストランの中に入るとアラブ風の装飾であるなど、イスラムの薫りがする。

どこに行っても中国人観光客のパワーはすごい。日本人もモロッコには来ているそうだが、少数派だ。日本の存在感はとても薄く、ほとんどの人が日本に関心がない。以前、インドを訪問した際に同じことを感じたが、さらに西に行くと存在感が希薄になっている気がする。逆に、モロッコのことを日本人がどの程度知っているのかというと、ほとんどの人は国がどこにあるかさえわからないだろう。

改めて世界の広さを感じる。現実世界の楽しみや苦しみも相対化して考えてみると、グローバル的にはそれは本当にちっぽけなことにすぎない。会社や家族や地域社会が、自分を押しつぶしてくると悩んでいる人も多いだろう。けれど、それは世界の中では芥子粒のようで、さらに宇宙のレベルまで視野を広げると本当にどうでもいいことなのではないか。

海外に行くと何がわかるか?所詮、いろいろ回ってもその国のことをわかるのはごく一部。しかし、もっとよくわかるのは、自分のことや日本人のこと、身の回りのことだ。そして、それこそが本当に知りたいことなのだと思う。

時間と金と体力と相談しながら、読者諸賢もどんどん海外へ。


ふじの・ひでと◎レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。東証アカデミーフェローを務める傍ら、明治大学のベンチャーファイナンス論講師として教壇に立つ。著書に『ヤンキーの虎─新・ジモト経済の支配者たち』(東洋経済新報社刊)など。

連載:カリスマファンドマネージャー藤野英人の「投資の作法」
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文=藤野英人

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