──イギリスにおける「キュレーションホテル」の先進事例を詳しく教えてください。日本でも、伝統工芸や職人技を取り入れた宿泊施設が増えてきていますが、どうでしょうか。
羊毛産業が盛んなウェールズ地方での例ですが、羊毛のファブリックやセラミックなどの作品を集め、宿泊客は欲しいものを買えるホテルがあります。
地域のアーティストを招いたワークショップには、SNSマーケティングで形成されたファンが世界から訪れます。キュレーションホテルが、出会いや学びの場となっているのです。またセルフケータリング(自炊)形式で、朝ごはんのために近くでとれた牛乳やパン、ハチミツをブランド化し提供するなど、地産地消の姿勢も高く評価されています。
いま熱海で2軒目のキュレーションホテルの改修を進めていますが、1軒目と同様に伝統建築の意匠を残しながら、モダンをミックスさせています。ですが、それぞれカラーを楽しめるように違った雰囲気に仕上げます。
6人まで泊まれる一棟貸しで1泊20万円強を想定しています。オーナーがこの地で熟成させてきた特別な文化体験もしていただけるようにしたいです。3軒目も2020年7月完成を目標に、アートとデザインの境界を行く最先端の領域をめざし鋭意進行中です。
日本においてもアーツ&クラフトツーリズムの広がりに、可能性を感じています。
私の地元である新潟、特に燕三条が頑張っていますね。ミラノサローネに出展するなどワールドクラスのネットワークを持っています。10月に開かれた「燕三条 工場の祭典」は、地域の多くの工場をKOUBAとして開放し、国内外から約5万3千人の人たちが訪れました。いずれ新潟でもキュレーションホテルをつくってみたいですね。
5年後には、全国に15~20軒つくり、キュレーションホテルという形態が広く知られるようになっていてほしいです。
多くのインテリアが並ぶが、統一感のある「桃乃八庵」の室内(本人提供)
──熱海の「キュレーションホテル」は、澤山さんのこだわりが細部に込められた空間でしたが、初心者でもできるインテリアで暮らしを豊かにするこつを教えてください。
暮らしを豊かにするため、私は次の3点をおすすめします。
1. 赤い糸でつなぐ
2. しつらえの場をつくる
3. 産地を訪ねる
まず、1点目ですが、キュレーションホテル「桃乃八庵」の室内は、基本的に黒、赤、金色で統一感を出しています。ものすごい数のインテリアを配置していますが、視点の中で、それらの3色が繋がって行くのです。
そして海にまつわるモチーフを全体的に多用し、ガラスやアクリル素材で水面のようなイメージを表現しています。このように統一する手法を「赤い糸でつなぐ」と言います。
限られた色合いで構成されたしつらえの場
2点目ですが、できるだけ「しつらえの場」をつくってもらいたいですね。床の間文化が消失しつつありますが、玄関の前やリビングなどにひとつでも良いので、つくることをおすすめします。そこには、大事なものを置いてください。
生活のステージごとに、インテリアを磨くのも良いと思います。20代で好きなものを自分で買い始め、40、50代の人の家にはそれまで買い貯めたものもあると思います。それから70歳になって削ぎ落として行くと良いでしょう。