だが、PE投資会社には誰も救いの手を差し伸べそうにない。そして今、市場がウーバーのロックアップ(IPO前からの大株主らの株式売却を一定期間、制限する契約)期間終了による影響を注視するなか、PE勢による破壊的なテック企業への大盤振る舞いのなかでも、最もひどいものをやってくれたと、ひんしゅくを買っている企業がある。そのウーバーの筆頭株主でもあるソフトバンクグループ(SBG)だ。
SBGは先月23日、シェアオフィス運営の米ウィーワーク(ウィーカンパニー傘下)に対して、計45億ドル(約4900億円)分の株式購入などの支援策を実施すると発表した。これにより、SBGの持ち株比率は8割まで高まることになる。SBGの孫正義会長兼社長は発表文で、今回の支援はウィーワークへの関与を「さらに深める」ものだと述べている。支援策の一環で、ウィーワークの既にぼろぼろのバランスシートには、SBG側からのデットファイナンス(借り入れによる資金調達)によってさらに50億ドルが加わることにもなった。筆者には、SBGの立場になりたい企業がほかにあるようにはとても思えない。
ウーバー株の急落は、孫会長とSBGが好んで投資しているような、破壊的と評されているが現金燃焼率も高い企業に、市場が厳しい視線を向けていることを改めて示した。非公開企業を対象としたSBGの投資ポートフォリオは、テック企業、なかでも配車サービス企業への比重が高いだけに、市場のこうした見方は、そのポートフォリオへの評価に非常にネガティブな影響を与えている。
SBG傘下の「ビジョン・ファンド」では今年6月30日時点で、簿価ベースの総資産822億ドルのうち輸送・物流部門の資産が335億ドルを占めている。普通の感覚を持ったポートフォリオ・マネジャーなら、特定のセグメントにこれほど偏った資金運用はまずしないだろう。だが、孫会長とSBGはそうするのに何のためらいも感じていない。ビジョン・ファンドが出資している配車サービス企業には、株式の12.8%を所有するウーバーのほかに、中国の滴滴出行(傘下にブラジルの同業99を持つ)、インドのオラ、東南アジアのグラブがある。主要な配車サービス企業でSBGが投資していないのは、同社の日本でのライバル、楽天が出資する米リフトくらいだ。
だが、ウーバーの今年1〜9月のキャッシュフローがマイナス29億3000万ドルという途方もない額に達したことは、この業界は単にもうからないということを示しているのだとしたら? ついでに言えば、リフトも今年3月のIPO後、株価はおおむね低迷している。もしかすると市場は、配車サービス業というものは、シリコンバレーの人々がウーバーのバリュエーションを1200億ドルとささやき合っていた時に想定されていたような、魅力的なリターンは生み出さないと私たちに告げているのではないか。実際、ウーバーの足元のバリュエーションは480億ドルほどまで縮んでいる。