原田:食事の話が出てきましたけど、よく眠るための食事のポイントはありますか?
松嶋:前回の記事にも出たように、今のビジネスパーソンは「体」よりも「脳」が疲れる働き方をしています。しかし、寝るというと「体」を休めるために横になればいいと思っている。「脳」のことを考えていないから、興奮する(交感神経を刺激する)ものを食べ続けている。寝る前のチョコとかね。
また、自律神経の観点から見ると、落ちつかる副交感神経は実は脳だけじゃなく「腸」から出ていることも多い。だから脳と体だけでなく「腸」のことも考えないといけない。
それなのに、現代人は寝る時に胃が活発に動いていることがとても多い。でも、寝てる間はなかなか消化が進まない。本来寝てる間は吸収と回復をするべきなのに、そのエネルギーが消化に費やされることで回復と吸収をする余地がない。するとどんどんすり減ってしまう。
だから、「これを食べたら脳を刺激するな」とか「今食べたら胃に負担がかかるな」とか、食べ物が体にどうアプローチするかを考えて、オフモードに入る準備をすることが大事ですね。
小林:睡眠もオンとオフの切り替えが大事です。睡眠時って完全に脳が休んでいると思っている人が多いと思いますが、レム睡眠の時は起きている時と同じぐらい脳が働いて、記憶の整理とか心の整理とかをそこでしているんです。
松嶋:世界を陰と陽に分けると、イスラムは陰の世界で、彼らは死に向かって生きていると言われています。どうやって良い死を迎えるのかという美学。そのために食べるものもちゃんと選ぶ。しかし、僕らはそいういう準備をしていない。寝るために食事を考える意識なんてないですよね。
原田:昼間が忙しいからこそ、夜は楽しもうみたいな考え方をしてしまいがちで、むしろ興奮する食事をとる。金曜の夜はともかく、毎日そういう人も少なくないはずです。
松嶋:多くの人が、睡眠を「スイッチが切れたから充電すること」と思っている。でもそれではダメで、切れないようにする事が大事です。人間の体は賢くできていて、寝てる間にアップデートするから。だから寝る前に、「アップデートのための準備しなきゃ」と、そういう感情を持てるかどうかですね。
原田:寝てる間にアップデートを準備する……面白い視点ですね。普通はオフにすれば休めるものだと思っちゃいますよね。
松嶋:iPhoneと同じです。「あれ? 今日アップデートする予定だったけど容量が足らなくて、朝起きたらできてなかった」みたいな。ほとんどの人がそういう人生を送っているわけですよ。ビジネスや社会をアップデートしようとか言ってるのに、自分をアップデートできてない。
小林:睡眠も似たようなところがあります。人が起きて活動している状態は、パソコンでいうと、稼働してオンラインの状態なんですね。一方「レム」は外界との繋がりが遮断され、オフラインだけど稼働している状態。「ノンレム」とかディープスリープとかになると完全に収束して、ストレージの整理とかをしている状態です。人の睡眠の状態も、パソコンの情報を整理してチャージする状態に例えられますね。
原田:眠るという回復行為をもっと能動的に捉えて、そのための食事をどうすべきかの思考が必要ですね。体はどこかで「これじゃまずい」というサインを発してくれているはず。忙しいとそれを感じ逃しちゃうものなんですかね?
松嶋:頑張りすぎちゃうと、それって顔に出ますよね。でも自分の顔色って、朝鏡を見ればわかるけど、今日はどうかなって毎日チェックしている人がどれだけいるか。「母というアプリ」があれば気づいてくれるだろうけどね。もしくは一緒に食事をとってくれる人がいれば気づいてくれるでしょう。
自分自身について気づくのは難しい。他人について気づいてあげる習慣が、助け合いを生むんじゃないかなと思いますね。(第3回へ続く、11月25日公開)