2020年にはロボットが採点? 世界も驚く「離れ技」が実現するまで

藤原英則(中央)と佐々木和雄(一番右)

飛んでひねって回転して。体操の技はプロの目にもわかりにくくなってきている。それを自動で判定する仕組みづくりに、体操部を持たない日本企業が挑んだ。

Forbes JAPANが初めて開催したスポーツビジネスアワードで、ワールドクラス賞に輝いた富士通の体操の採点支援システム。2人の社員が始めた奮闘が体操とスポーツの「世界標準」を変えようとしている。(2019年10月25日発売のForbes JAPAN12月号「スポーツ×ビジネス」特集にて、アワードの全記事を掲載)



10月4日から13日まで体操の世界選手権が開催されたドイツ・シュトゥットガルトの会場には、小ぶりのスピーカーのような機器がひかえめに設置されていた。国際体操連盟と富士通が開発したシステムの一角を担う3Dレーザーセンサーだ。これで選手の動きを計測し、データベースと照合することで、採点の支援をする。

このシステムは今大会で初めて男女4種目で正式採用された。世界標準として歩みだしたその様子を、藤原英則は感慨深く見守っていた。3年前の2016年、藤原は苦境に立たされていた。

「あまり勝手なことばかりをやるなよ」

このプロジェクトにあまりに情熱を注ぎすぎて、上司にそう言われたのだ。野球でもなくサッカーでもなく、なぜ体操? という声も耳に入ってくる。指摘はどれもごもっともだ。しかし、藤原は首を縦に振らなかった。社内では表彰も受けているし、応援してくれる人がいないわけではない。

それでも意気消沈してしまうとき、あるときは本社近くの居酒屋の個室で、あるときは人目につきにくい百貨店の婦人服フロアの喫茶店で励ますのは、決まって佐々木和雄だった。

富士通のような巨大企業では、企画畑の藤原と研究畑の佐々木が出会う機会はあまりない。ふたりを引き合わせたのは、社内研修だった。

その場で佐々木は、個人的に開発していたゴルフのトレーニングシステムについて話をした。スイングを測定して数値化し可視化することで、フォームや飛距離の改善につなげようとするものだ。

「もともとはテニスの上達のためにシステムができないかを考えていたのですが、コートを動き回るので難しい。その点、ゴルフならスイングは決まった場所で行うので、理想型と実際の動きを比較するのは簡単です。市販のセンサーを使い、週末に試作していました」

IoTやエッジコンピューティングに必要な技術を研究してきた佐々木にとって、これは趣味の開発だった。

その話を聞いていた藤原は、面白いと感じ、日本体操協会の渡邊守成専務理事(当時。現・国際体操連盟会長)に佐々木のゴルフシステムを試用してもらった。藤原は15年に富士通が東京2020ゴールドパートナーになって以降、スポーツビジネスの可能性を探るためさまざまな関係者と会っていた。

渡邊との出会いもその一環で、体操に特別な関心を持っていたわけではなかった。ところが、「2020年には、体操はロボットが採点しているのでは」という渡邊の言葉が藤原にひらめきをもたらした。
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文=片瀬京子 写真=宇佐美雅浩 撮影協力=Yoshihiro Ueda(One on One Acrobat Production), Mizutori Sports Club

この記事は 「Forbes JAPAN 「スポーツ × ビジネス」は、アイデアの宝庫だ!12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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