人生の「リスタート」を考える──定年後を豊かに生きるために

Getty Images

人生100年時代と言われる今日、満60歳で迎える還暦は、まだ人生を折り返したばかりだ。昔に比べると人生の後半戦の時間はきわめて長い。この節目に自分の能力や社会・人間関係を再確認し、生活の「棚卸」を行うなど、人生の「リスタート」について考えてみることは、定年後の暮らしを実り多いものにするためにきわめて有効だろう。

人生のリスタート

村上龍さんの『55歳からのハローライフ』(幻冬舎、2012年12月)という本がある。還暦前後の夫婦の日常生活を描いた5つの中編小説をまとめたものだ。ひとつは、妻と一緒に全国をキャンピングカーで旅する夢を実現しようと早期退職した夫が、妻の同意が得られずに再就職を試みるが、どこにも雇ってくれる会社はなく、自らの市場価値に気づくという話だ。

ビジネスパーソンは定年を間近に控えると、退職か再就職か、大きな選択を迫られる。特に転職を考える場合は、自己能力の時価評価が必要になる。同一企業で長く働いていると、社内でしか通用しない能力を社会全般でも通用すると勘違いしていることもよくある。

もうひとつの話は夫が定年退職した後に熟年離婚した妻が、新しいパートナーを求めて幾度か見合いをした結果、新たな生き方を見つけていくというもの。東日本大震災以降、人生後半のパートナーを探す中高年の婚活が活発だそうだ。結婚相談所では自分の収入や趣味、性格、相手に望むことなどを自己申告する。それは人生で大切にしてきたことや今後の生き方など、これまでの人生観や価値観を再確認することに他ならない。

配偶者がいてもいなくても、人生をいつまでも生き生きと暮らす上で、異性への関心を持ち、他者からの視線を意識することは重要だ。年齢にかかわらず夫も妻も魅力あるひとりの人間としての「自分磨き」が必要だ。また、退職後は夫婦の向き合う時間が長くなり、お互いの生活を尊重しながら依存・干渉し過ぎない暮らし方も大切になるだろう。

長寿時代の人生は「第4コーナー」からのホームストレッチがとても長い。その間の世帯構成、定年時期や雇用期間、年金受給状況、健康状態など、個々の状況は大きく異なる。還暦を機とした生活の「棚卸」を行い、新たな働き方、夫婦の距離感、地域社会との関係などを考えた人生のリスタートが、一人ひとりの定年後を幸せに生きるために一層重要になるだろう。

人生の分水嶺

以前は満60歳で「定年退職」を迎える人も多く、還暦は企業に勤める人の人生の大きな節目だった。今日では定年や雇用の延長により60歳以降も仕事を継続する人が増えているものの、やはり還暦は人生の大きな区切りに変わりない。同年代の仲間と会うと、おのずとこれまでの人生を振り返り、これからの人生をどのように生きるのかという話題が多くなる。

これまでの人生は将来の目標を設定し、それに向かって頑張る生き方だった。少し高い目標を掲げて努力する、目標が実現すると大きな達成感を感じ、また新たな目標に向かって進んでゆく、いわゆる「右肩上がり」の成長志向型人生だ。そこには充実感や自己実現などの生きがいもたくさんあった。
次ページ > 急いで生きようとは思わない

文=土堤内昭雄

ForbesBrandVoice

人気記事