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「ソーシャルメディア空間では、各種の感情の中で『怒り』がもっとも拡散されやすい」という科学者がいる。数理モデルやビッグデータ分析を駆使する計算社会科学の手法で「SNSを通じたコミュニケーション」の仕組みと関わろうとする、名古屋大学の笹原和俊氏だ。

人間は客観的に情報と向き合っているのではなく、自分の信じたいものだけを受け入れる傾向があるとも指摘する笹原氏。「これからは『すべての人が(そこそこの)インフルエンサー』という時代」とも語る氏が科学的事実から読み解く、SNSを通じた人々のインタラクションとは、コミュニケーションの未来とは。


名古屋大学大学院情報学研究科で講師を務める笹原和俊氏は、複雑系の考え方からコミュニケーションシステムの解明に取り組んでいる。

複雑系とはすなわち「相互作用の科学」。ミクロな要素同士が相互に作用して、個別の要素では現れなかった新しいマクロ事象を生む「創発現象のシステム」の解明が使命だ。「全体」は小さな「要素」に分割しても本質は変わらないと考える従来の「要素還元主義」とは真逆の考え方で、その「全体は要素の合計『以上の何か』である」という前提に、予想できなかった革新的な「何か」を起こす機動力を期待する実業家も少なくない。

AIで「かそけき声」を拡声━━「ソーシャルセンサー・マーケティング」の時代へ

実は、SNSを通じた人々のインタラクションはまさに、「ミクロとマクロの相互作用の例」という。SNSが生まれたことによって人々の交流が加速され、スケールアップし、その中から新しいバズが生まれる。フェイクニュースや各種のバズは、人間社会が複雑系であるがゆえに自然に起きる創発現象だ。

では、生成され、流通する情報に牛耳られる現在の産業界でインフルエンサーをどう活用するかについて、 この複雑系の科学はどんなヒントをくれるのか。



この質問に対して笹原氏はある研究結果を引用する。アメリカの社会学者でヤフー・リサーチ主任研究員(現ペンシルべニア大学教授)のダンカン・ワッツのグループが行った実験のデータだ。

すなわち、マーケターがあるコンテンツを拡散しようとする場合などの「ある制御された実験環境下においては」、いわゆるインフルエンサーではなく、その影響力が平均的、あるいは平均以下の発信者たちが「もっとも効果的な拡散の役割を果たす」という結果だ。

「この極めて興味深い実験結果が示すように、社会学の領域では、『すべての人が(そこそこの)インフルエンサー』という時代を迎えるともいわれています」。つまり、われわれ自身を目や鼻や耳をもった「センサー」の集合体ととらえ、それらセンサーの中にある「ウィークシグナル(かそけき声)」をAIやデータサイエンスのテクニックで「拡声」できれば、新しい影響力を持つ強力なデータになりうるというのだ。

「全員がインフルエンサーとなる時代には、『全員の集合体』の声をうまく聞き取り、そこに埋め込まれた予兆をマイニングする「ソーシャルセンサー・マーケティング」で、『少し先』が見えてきます」

文=石井節子 写真=小田駿一

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