しかし、実際に23アンドミーがターゲットの陳列棚にたどり着いたのは、その3年後のことだ。13年11月、FDAからの販売停止命令が下ったからだ。
ウォジスキはこの年を振り返り、「すべてを失うかもしれなかった“ひどい年(アナス・ホリビリス)”」と表現する。当時、夫セルゲイ・ブリンが家から出たことが報じられていた。ふたりの小さな子どもを育てながら、新興企業のCEOとして奔走していた。そんななか、感謝祭の数日前にそれは届いた。FDAからの通達は23アンドミーに、検査キットの販売を即刻停止するように命じていた。検査の正確性を示す十分な証拠を提示できていないというのが、その理由だった。
飛ぶ鳥を落とす勢いだった企業が、突然の失墜。「シリコンバレーの傲慢な企業がまた報いを受けた」とも揶揄された。
FDAとの攻防も 医学界からは疑念の声
15年は、23アンドミーにとって再起の年となった。この年の2月、FDAは「ブルーム症候群」という希少疾患に関連する遺伝子変異のキャリア状態(保有状態)を判定する、同社の検査報告書に承認を与えた(ウォジスキ自身もこの遺伝子変異のキャリアだ)。23アンドミーは、FDAの認可を受けて消費者に直接、遺伝的な健康に関する検査報告書を販売する唯一の遺伝子検査企業となった。また同年、23アンドミーは同社が持つ遺伝情報バンク(許可を得た顧客から収集した匿名化されたデータ)を利用したい製薬企業との取引を始めた。まずはジェネンテックおよびファイザーと数百万ドル規模の契約を締結した。17年には、FDAが同社による健康リスク検査の報告書を認可した。
しかし、数々の承認も、医学界の疑念の声を黙らせるには至っていない。23アンドミーの検査キットには、「被験者の現在の健康状態を判定するものでも、医療上の決定の根拠として使用されるべきものでもない」というただし書きが細かい文字で記載されている。
検査結果が多くの面で限定的だということも指摘されている。今日までの遺伝学的研究の大部分は欧州人を対象に行われてきたため、アフリカ系米国人やアジア人に当てはまることはまれだ。
「まっとうな医師で、消費者に直接販売されている遺伝子検査の結果をもとに治療を行う者はいません」と、ケンタッキー州ルイスビル大学の生命倫理学教授、マーク・ロススタインは言う。