ビジネス

2019.10.09 16:00

大企業にイノベーションを同居させるには、健全な「エゴ」を育てよ

Thomas Barwick / Getty Images

ゼロイチのイノベーションの成否は、詰まるところ「個力」で決まる。事業開発はアイデアへの着想やビジネスデザインへの構想、また人や機能、さらに金を集め、実現に向けて組み立てていく求心力など、いずれも強力な個力が求められるのだ。

一方、スケールさせる段階で求められるのは、徹底した「脱個人」である。開発、製造、販売、システムや組織制度に至るまで、属人から脱する仕組みを組み立てた企業がスケールする。スポーツで言うならば、スター選手を中心に戦術やチームを組み立てるか、組織や戦術を優先し個人を当てはめるかという思想の根本的違いとも言える。

現在大企業として存在する会社も、かつての創業期の「個力」基点から、「脱個人」化へのシステム変換がなされているケースが多い。

大企業で新事業開発を進める場合には、このシステムの根本的な違いと向き合うことになる。新事業開発において、新しい価値にあわせて事業の進め方をデザインし直す過程では、既存のやり方とのバッティングが多発する。

異物感満載かつ未知数のやり方を既存組織で押し通していくには、個への強い信任と権限付与が必要となる。ベンチャー起業家は、こうした軋轢を、投資家からの個への信任とインセンティブ付けで突破する。

しかし、脱個人化を前提としている大企業では、この仕掛けを採用することは自己矛盾となり、難しい。この矛盾の突破には、システムの齟齬を股にかけられる強い人材の登用が必要となる。

つまり、強いエゴで構想への妥協を許さない「異物性」と、周りから個人として許され信頼される「親和性」、このふたつのバランスを高次で保てる人材だ。

わかりやすい例として、サッカー日本代表が挙げられる。ワールドカップ常連国となる過程では、中田英寿選手や本田圭佑選手のような強い個の存在が原動力となった。彼らは葛藤の中で自らの強い「エゴ」を、チームをまとめる求心力に昇華させ、チームを進化に導いたのである。

新事業公募などで面白い提案をしてくる人はいるが、必ずしもそういった人材が突破力を満たしているとは限らない。また、既存組織内で調整力が優秀と評価されてきた人材も、強いエゴを発揮して自ら変化を起こすエネルギーを兼ね備えているとも限らない。

大企業にイノベーションを同居させるには、まず強い個を見出し、動機づける「OS創り」だ。言い換えるなら、個に向き合い、健全なエゴを育てる「土壌づくり」とも言える。

イノベーションとは、既知のものが異物性を取り入れて化学反応を起こすことであり、これを牽引するのは、組織や制度でなく個のエゴのぶつかり合いである。

企業は協調性を育成することに長けているが、個のエゴを育てることができているだろうか。私は事業開発のコーチングやアクションラーニングにおいて、あるべき論や手法論よりも、個のこだわりの引き出しを重要視している。

どんな改革や新事業でも、まず個としての強い問題意識やWillを掘り起こし、それを中心として実践を組み立てる。そうして生まれた取り組みは、少々定石を外していても成功確率が圧倒的に高まる。その過程を通じて、強い個力を持つ人材を見出し育て、変化を牽引できる人材のプールを創っていくことが長い目で重要だと考えている。

連載:企業経営とイノベーション
>>過去記事はこちら

文=大庭史裕

ForbesBrandVoice

人気記事