6月の後半に10日間かけてフィリピン、ベトナム、インドネシアを回ってきた。マニラ、ハノイ、ホーチミン、ジャカルタの4都市である。
観光ではない。米中貿易戦争を受けて、中国のサプライチェーンが身動きを取れなくなってくると、必ずそのおこぼれを頂戴する国や会社が出てくるはずだ。日本や韓国、台湾、タイなどが有力な候補地だが、ベトナムやインドネシア、フィリピンも次に有力な候補地だ。ちなみに、その頭文字をとってこの3国をよく「VIP」と呼ぶ。
ベトナム、インドネシア、フィリピンをはじめ、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国の産業構造をみると、類似するところが多い。一握りの巨大財閥(場合によっては共産党)が富の大半を握る構図で、その主力産業は不動産・建設、流通、金融、通信、建設関連素材、プランテーション、資源・エネルギーなど、経済の中心を占める広義のインフラ産業である。いわば川上産業が中心で、ITをはじめとする川下産業の多くは先進国企業に中核技術を依存している。
ASEAN各国市場を大局的に見れば、国が高成長するグロースの要素が強い一方で、国内産業はほぼ農業や観光、建設、不動産、インフラ型産業によって成り立っている。もしこのまま産業構造が変わらなければ、今から5〜10年間に1人当たりGDP(国内総生産)が5000〜6000ドルに倍増するものの、それくらいが天井になるのではないか。
もちろん、このレベルまで到達することは十分に可能で投資の好機だと思う。だが、国民全体で幸せを感じるだけのレベルになるかどうかに関しては、今のところ難しいように思える。この壁を突破できずにもがいているのが今のタイだ。
日本は川下産業で輸出をし、川上産業の製品を輸入している。鉄鋼や電子部品、自動車部品、自動車、パソコンなどを海外に輸出している。これらの製品を作るには、高度な技術の蓄積と高い教育水準、優秀な下請け製造業やハイテク工場が必要だ。日本ではこうした企業があるのは当然だが、前出のASEAN諸国の多くにはそのような技術基盤や生産基盤がない。
ないなら作る必要があるが、残念ながらこれらは一朝一夕には獲得できない。10年かかっても、韓国や台湾、中国、日本に迫ることは難しいだろう。私たちが当たり前だと思っている製造業の厚みというのは、それほど簡単には得られないのだ。
日本は少子高齢化が進んだ“老人国”で、魅力がないように思い込んでいる人も少なくない。しかし、ASEAN諸国を回ると、そのような当たり前を確保するのにどれだけ長い時間や資本蓄積、教育の厚みが必要かということを思い知らされる。安心ばかりしていられないが、私たちの今の水準に中堅アジア諸国が追いついてくるのが難しいのも事実だ。