絵画の部屋からさらに奥に進むと、そこはかつてアマゾン社員向けのカフェテリアとして使われていたフロアになる。誰でも利用することが出来たその場所は、多くの社員が食事に使うだけでなく、ミーティングをする場所として使った。
2004年頃、「なか見検索」という書籍検索機能のプロジェクトマネージャーをしていた私も、このカフェテリアでドット・コム側の担当ディレクターと、日本展開に関するミーティングをしたことを思い出した。
ちなみにデイブ氏いわく、当時のジェフ・ベゾスは会議室で重役メンバーとミーティングをするより、カフェテリアでシステムエンジニアと議論をするのが日課だったとの事。今でも利用されている多くの機能が、このカフェテリアで発案され、実現されてきたのである。
現在の「パックメッド」ビルディング、エントランスのドア。かつてアマゾンロゴが掲げられた場所にはヒンジ(金具)だけが残されている
現在、このパックメッドビルディングは、政府機関がオフィスとして使っているということだが、その面影は、私がアマゾン社員として東京から出張していた当時からまったく変わらない。とりわけ、最上階、8階の大会議室は今でも創業時の息吹が生々しく感じられる佇まいだ。そこでアマゾン初期の多くの重要な決定がされた。当然、日本進出や、今のビジネスの中核をなすサービスもこの場所で決定されたのである。
破り捨てられたアジェンダ、会議冒頭の「黙読」
アマゾンは会議が非常にユニークなことでも知られているが、初期のころはとくに様々な試行錯誤が行われていたとデイブ氏は語った。
たとえば2000年初頭、ミーティングのアジェンダがきれいにまとめられた幹部ミーティングで、ベゾスはいきなりそのアジェンダを破り捨てたという。「イノベーションを起こすための会議にアジェンダは要らない!」と言い捨て、以後もアジェンダを用意することを禁止したのだ。
そして、アジェンダをあらかじめシェアしなくても議論が出来るように進化した形が、今アマゾンで採用されている「パワーポイントなし、文章(ナラティブ)のみ」のドキュメントだ。
アマゾンの会議は、「始まり方」に特徴がある。会議開始と同時におよそ15分間、誰1人声を発することなく、沈黙が続くのである。これは、参加者全員が「ナラティブ」といわれるドキュメントを黙々と読んでいるからだ。初めて会議に参加する社員は、その静かさに戸惑う、という話はしばしば聞かれることである。
これは、パワーポイントできらびやかに装飾され、アニメーションで目を奪うようなプレゼンに嫌気がさしたベゾスが、すべてを「文章で書く」ことを要求したことから始まった文化で、提案や報告をする社員は、1ページ、もしくは6ページの「ナラティブ」を用意する決まりだ。社員の「文章力」が前提であることは言うまでもない。アマゾン社員にとって文章を書く力は必須スキルなのである。