ビジネス

2019.08.28

ディープラーニングの課題に挑む 京都のAIベンチャー「ハカルス」

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そうなると、今後は少量のデータで高精度な結論・予測を導き出すAIが必要とされてくるはずだ。日本でこの分野で目をつけている企業に、京都のAIベンチャー・ハカルスがある。同社は「スパースモデリング」と機械学習を組み合わせた新たなAIシステムを、医療や製造業向けに提供している。

スパースとは「かすかな」「すくない」の意。少量のデータからモノゴトの本質に近い要素を抽出し、全体を再現する数学的手法である。今年4月、世界で初めてブラックホールの撮影に成功した国際プロジェクトでも、同手法が使われていたというのは広く知られた話だ。今回、ハカルスの藤原健真CEOに直接話を伺うことにできたのだが、その内容はなかなかに衝撃的だった。

「スパースモデリングは、もともと機械学習のための技術ではないが、MRIの撮像時間を短縮するための圧縮センシングの手法の1つとして脚光を浴びたことに端を発する。長時間にわたり撮影をしなければならい患者の肉体的・精神的苦痛を和らげるために開発されました。現在、弊社にはディープラーニングを導入した企業のみなさまから問い合わせが増えている。皆、実用化レベルで困難を感じていると言います」

藤原氏は、ケースバイケースではあるが、「スパースモデリング×機械学習」という組み合わせを使い、数百~数千分の1というデータ量でディープラーニングより高い精度を担保できた場合もあるとする。しかも使うデータ量が少ないので、現場ですぐに実用化することができるし「説明可能性」も担保されている。特筆すべきはその消費電力だ。「同じ状況で使われていたディープラーニングの数百~数千分の1にまで、大きく低減できたケースが実際にあった」という。

「人間がモノゴトを判断する際には、ディープラーニングのように大量のデータを脳内で処理していないはず。少量のデータから本質的な情報を掴むスパースモデリングの方が、より人間の思考に近いのではと個人的には考えています」

ディープラーニングより「スパースモデリング×機械学習」が優れていると結論づけるにはまだまだ早計かもしれない。しかしながら、ディープラーニングがトレンドとなり数年が経過した現在、各企業内部において導入上の課題が露呈してきたのもまた事実だ。ディープラーニングを補完・代替する技術が現れる「ポスト・ディープラーニング時代」は、刻一刻と近づいてきているのかもしれない。

連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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文=河 鐘基

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