まずディープラーニングには、大量の学習用データが必要となる。しかしながら、すべての企業がデータを潤沢に保持している訳ではない。データを持っていない企業にとっては「絵に描いた餅」に過ぎず、そもそも使えないという大きなハードルがある。
仮にデータを大量に保有していたとして、その「質」も問われてくる。学習に適さない不正確なデータ、言い換えれば「ノイズ」が多く含まれている場合、AIを学習させたとしても思ったような結果が得られない。膨大なデータを処理する時間やコンピューティングパワーも必須となる。
さらに、クラウドにデータをアップロードして処理・学習するとなると、時間ばかりか個人情報などデータセキュリティ上の懸念や対策も、企業のコストとして上乗せされる。
「ブラックボックス化」も大きな問題のひとつだ。端的に言えば、AIが膨大なデータを学習し判断を下しているため、その過程を人間が理解することができない。例えば、医療現場ではAIが患者のデータから疾患を見抜いたとしても、人間の医者がその理由を説明することができない。つまり、「なんだか分からないがAIがそう判断した」としか説明しようがないのだ。
現在、画像認識AIで疾患を特定する技術が注目を浴びているが、画像は人間が見ることで“何とか理解が追いつく”という実情がある。言葉を返せば「説明可能性」が担保されない限り、それ以上の使い方ができないということにもなる。工場など生産現場のラインにおいても事情は同じだ。AIが不良品と判断したとして、その理由が分からなければPDCAサイクルを上手く回すことができない。
見落とされがちだが、消費電力量の問題もディープラーニングの大きな課題となるだろう。ディープラーニングの省電化のための研究は進んでいるが、それでも人間の数千~数万倍のエネルギーを労費するという実情は今なお大きな進展がないように思える。今後、世の中にディープラーニングおよび、似たような大量データから予測や結論を導き出す技術が普及したとして、計り知れないレベルの電力が世界的に必要になるという話は世界各国の専門家たちが指摘しているところである。
実際、そんなさまざまな理由から「ディープラーニングは現場で使いづらい」とするビジネスパーソンが少しずつ現れているとの業界内の話もある。いわゆる企業内のアーリーアダプターたちが、一周回ってディープラーニングの限界に頭を悩ましているというのだ。