解決の一手は「バナナペーパー」にあり。自分探しの旅で目にしたゴミ山の衝撃 #30UNDER30

Kumae代表 山勢拓弥


本格的に雇用問題の解決に取り組むため、2013年8月に現地で任意団体を立ち上げた後、15年5月には一般社団法人Kumaeを設立した。最初はミサンガ作りに取り組んだが、先が全く見えなかった。「こんな誰でも出来ることを続けてどうするんだろう、日本に帰って仕事したほうがいいんじゃないか」とさえ思った。そんなときだった。

カンボジア在住の日本人から、アフリカのルワンダで「バナナペーパー」を作っている人を紹介されたのだ。

「バナナの木からつくるバナナーペーパーって面白いなと感じて、本格的に取り組みはじめました。いろんな作り方があるし、使うバナナも違うし、道具も工程により異なる。めちゃくちゃ難しくて、それがとても楽しかったんですよ」

しかし、作り方がわからない。アフリカの知り合いからもらったバナナペーパーを見本に見よう見まねで製作する。何度作ってもバナナの皮の繊維がむき出しになってしまう。どうすれば見本のような紙にできるのか試行錯誤していると、ゴミ山で働いていた村人が徐々に手伝ってくれるようになった。やがて彼らに少額の賃金を支払うようになった。

「徐々にバナナの皮が紙に近づいて、紙袋やポストカードとして販売できるようになりました。でも紙なので雨に濡れたら使えなくなる。長く使ってもらうには耐久性も防水性もあるバナナペーパーを作らなければならかった。水に濡れても平気な紙の作り方を知っている人がいないかSNSで呼びかけたところ、知り合い経由で大手繊維会社の人を紹介してもらいました。カンボジアに帰国してから、教えてもらった特殊なポリエステルとバナナの皮を組み合わせて、さらに試行錯誤を重ねました」



バナナペーパーをつくる価値は雇用ではない

そして1年後、防水性を兼ね備えたバナナペーパーが完成。現在はシェムリアップの市内に3店舗展開し、オンラインストアも開設。ポーチやPCケース、バッグなど幅広いジャンルのバナナペーパー製の商品を展開する。かわいらしい柄や素朴な素材感で、海外からやってくる観光客から人気だ。

製作をする労働者は12名にまで増えた。ゴミ山以外の労働者を増やす目的で始めたバナナペーパー事業だが、それが覆る出来事が起きる。2016年に2kmほど離れた場所に中国資本のメガネの製造工場ができ、1000人ものカンボジア人を雇用したのだ。

「僕のやっていたことがちっぽけに、ばからしく思える現実を見せつけられました。でもたとえ雇用の観点からは大きな価値を生めなくても、それ以外の価値が提供できるのではと思ったんです」

それが、現地の人々が「成長できる場」だ。

「カンボジア人の成長意欲はすごい。バナナペーパーの工場では2時間休憩をとっていますが、村人は15分でご飯を食べ終えて、残りはミシンの練習をしているんです。マネージャーに昇格したら教える側に回る。日本語学校を開設すると、80人の子供達から応募がありました。それだけカンボジア人は成長できる場所、頑張れる場所を求めているんです」

さらに、Kumaeの事業を始めてから、村人には嬉しい変化が表れている。

「ゴミ山で働いていた女性がいました。最初会った頃は髪もボサボサで『大丈夫かな』と心配していたんですけど、村に戻ってバナナペーパーの仕事を始めると身なりも綺麗になって、最近『いつか結婚したいな』と夢を語ってくれて。カンボジアの人々に、ほんの少しでも意味のあることが出来ているかなと感じました」
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文=田中一成 写真=小田駿一

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