展示中止から1、2週間のうちに新しい展開も見せた。
まず、なかでも「撤去をしなければガソリンの携行缶を持ってお邪魔する」などと、展示の中止を求める脅迫状を送った男が、8月7日に威力業務妨害の疑いで逮捕されたことは大きかっただろう。また、同日には、会場の1つである愛知芸術文化センターのエレベーター内で、警察官に対して「ガソリンだ」と言いながらバケツに入った液体をかけた男が公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕されたこともあった。液体は無色透明の水だったようだが。
国際的な右傾化の流れを受け、テロを連想させるようなことが日本でも起こりうるという事態は深刻に受け止められるべきだろう。
芸術祭の回復と継続を
6日には、トリエンナーレに参加する国内外のアーティスト72組による声明が発表された。以下に一部を抜粋する。
「私たちの多くは、現在、日本で噴出する感情のうねりを前に、不安を抱いています。(中略)私たちが求めるのは暴力とは真逆の、時間のかかる読解と地道な理解への道筋です。個々の意見や立場の違いを尊重し、すべての人びとに開かれた議論と、その実現のための芸術祭です。私たちは、ここに、政治的圧力や脅迫から自由である芸術祭の回復と継続、安全が担保された上で自由闊達な議論の場が開かれることを求めます。私たちは連帯し、共に考え、新たな答えを導き出すことを諦めません」
参加アーティストの一人、鷲尾友公に話を聞くことができた。鷲尾自身の創作スタイルとして、政治や社会問題とは離れた場所での表現活動であることを明確にした上で、「この声明が火に油をそそぐ結果にならないか少し懸念しているのも事実です」と慎重に前置きしながら、率直な心情を明かした。
事務局では、開幕前の7月31日からすでに苦情や抗議の電話が鳴っていたという。3日には、鷲尾はちょうど展示会場を訪れており、スタッフに対して抗議している人や賛同している人、賛否両論を主張する大勢の人たちを見て「ただならぬ空気を感じた」と振り返る。
「なぜこんなにも怒っている人が大勢いるのか。事実を知らずに右向け右をしている印象で、人間の考える能力が低下しているように感じた。美術館だけでなく役所など、周りの環境から破壊して中止に追い込んでいくような流れになり、こういった人たちが本当に多いんだ、と正直、驚きました」
実際に協賛企業や団体への電話やメールにより、様々な意見などが寄せられ、「ご迷惑をおかけしている状況にある」として、あいちトリエンナーレの公式ホームページ上で、協賛企業や団体名の掲載を見合わせることが13日発表された。
鷲尾は「作品の意図を読み取る感受性があれば、脅すなんてことはしないと思う。表現の豊かさがなく、ナンセンス。とにかく表現の機会が失われていくことは残念だ」と感じたという。
一部の展示が中止となっても、今後もあいちトリエンナーレは10月14日まで続く。鷲尾は「トリエンナーレをまずは見に来てほしい。いろんな問題に向き合ったり、自分自身の思いに刺さったりする展示もあると思うので、ただSNSで批評をするのではなく、興味本位でも良いから、実際の内容を見てから判断してもらいたい」と思いを明かす。