「がんばれ! 行ってこい! キレイだよ! あとちょっと! もうすぐだよ!」
2019年5月4日、北海道広尾郡大樹町。簡素な司令所の中で、インターステラテクノロジズ(IST)のメンバーたちは、打ち上げたばかりのロケット「MOMO」3号機に必死で声をかけていた。発射からおよそ3分が経過。ロケットはぐんぐん上昇していく。
「(高度)95km、97km、98km……、よしっ! やったー! 超えた! 超えたー! たった今、高度100kmに到達しました!」
その瞬間、全員が一斉に拳を突き上げ、ハイタッチで打ち上げ成功に歓喜した。当初はアパートの風呂場でロケットエンジンの試験を繰り返していた企業が、ついに日本初の偉業を成し遂げたのだ。最終的に3号機は高度113.4kmまで飛行した。
開かれた「みんなのロケット」
ISTは、有志で発足した「なつのロケット団」を前身に、ホリエモンこと堀江貴文が設立した民間ロケット開発企業だ。大手メディアはこぞって「ホリエモンロケット」と取り上げるが、これは同社を一側面から捉えた表現に過ぎない。代表取締役社長CEOの稲川貴大はこう語る。
「僕たちが作っているのは、『みんなのロケット』なんです」
本拠地を置く北海道大樹町は、人口約5700人。町民の5%近い250人以上がISTの後援会員になっており、発射実験の際には、交通整理にも主体的に協力してくれる。発射実験のための資金調達にはクラウドファンディングも使い、全国から支援を募っている。
特筆すべきは、技術情報を積極的に公開していることだ。ISTは開発状況だけでなく、打ち上げの生データまで公開している。機密情報が多い航空宇宙業界では極めて珍しい。
「ISTのロケット技術は、国レベルの最先端の研究開発とは一線を画しています。我々の技術はアポロ計画時代に公開された情報を活用しながら開発していて、目指しているのは『世界最低性能レベル』のロケット。『誰もが気軽に行ける宇宙』です」