永原教授によれば、IITでの教育の特徴の中で、とくに日本の大学と大きく異なる点は次の3つがあげられるという。
競争的な環境
学部の成績は相対評価であり、成績を挙げるためには常に人よりも良い点数を取らなければならない。教授たちも学生たちの競争心を煽るように難しい課題を出す。このような競争的な環境で、学生たちはトップを目指して死に物狂いで勉強する(しかし、その反動で成績不振から自殺する者も多い)。
全寮制
学生はみなキャンパス内の寮に入寮する。例えばIIT Bombayには14の学生寮があり、議論好きなインドの学生たちは、そこで夜を徹して議論を交わしている。
寮の運営は学生に任されており、寮ごとに個性がある。プライドが高く、「扱いにくい」エリートたちを取りまとめるために、寮長は強力なリーダーシップを発揮する必要がある。
目立つ力
「国際会議で一番難しいのは、インド人を黙らせることと、日本人を喋らせることだ」というジョークがある。永原教授の担当講義でも、常に学生が教員に対して質問し、しばしば板書の誤りを指摘したりしたそうだ。講義はいつも議論の場となり、発言によって学生の知識はさらに強固なものになる。
米国MITよりも優秀と言われることもあるIITの学生たち。その原動力は、日々切磋琢磨するこれらの学生生活にあるのだ。
学生たちのスタートアップも
IITでは学生のスタートアップも盛んだ。IIT Bombayには学生が運営するEntrepreneurship Cell(略してE-CELL)という団体があり、起業家のためのワークショップやネットワーキングなどのイベントを積極的に開催している。
IIT Bombayの卒業生が設立したOLAという配車アプリの会社は、インド国内ではウーバーと熾烈なシェア争いをしている。OLAは自動車だけでなく、オートリキシャ(トゥクトゥクのような3輪車)やオートバイも呼べ、かなり利便性が高い。この会社は、最近ソフトバンクから2億5000万ドルを調達した。
また、IITと並ぶ名門大学であるデリー工業大学の卒業生が設立したpaytmは、スマホでの決済アプリを開発しており、インド国内のいたるところで使用することができる。このpaytmにも、ソフトバンクは14億ドルを出資している。ソフトバンクとヤフーのPayPayへの技術提供もこのpaytmだ。
北九州市立大学の永原正章教授(右)と筆者 (c)Silicon Valley Ventures
めざましい活躍をするITTの卒業生たち。彼らがシリコンバレーを始め、世界中で大企業の経営者やCTOとして活躍したり、スタートアップを起業したりする姿は、後輩たちにも、海外進出を身近に感じさせるという好循環を生んでいる。
もう、従来の世界ランキング上位の大学だけを見ていては、実際に活躍する実力は計れないのかもしれない。日本でも、卒業後すぐにシリコンバレーの企業で働き始めたり、世界を舞台に活躍したりする人材を養成するための大学側の取り組みが、急務として必要なのではないだろうか。
連載:イノベーション・エコシステムの内側
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