だがこの頃の長谷川は、アマゾン ジャパンのローンチまでの歩みを一歩ずつ着実に進めていた。長谷川が後になってから書き出した、「ローンチまでにクリアしなければならなかった」日本市場ならではの15の課題、「15 キー・チャレンジ」を見てみよう。
長谷川の「15 キー・チャレンジ」(後に振り返って書き出したもの)
1. 何から立ち上げるべきかを決める
2. 立ち上げまで社名を明かせない
3. 短期間で多くのスペシャリストを採用し育成する
4. 11〜12月はすべてのプロジェクトが凍結される(注:すべてのUSのリソースがホリデー商戦にアサインされてしまうため)
5. カスタマーサービスセンターをどこに設置するか
6. 物流センターの選定~労働力の確保
7. 初期在庫としてどんな本を何冊ずつ揃えるべきか
8. 和書の価格設定と配本確保のジレンマ
9. 新刊本発行点数の多さ、流通サイクルの短さ
10. 電子カタログ(商品データベース)の構築
11. ソーシングの決定とEDI、インフラストラクチャの整備
12. eコマースのプラットフォーム、日本対応
13. 日本市場向けコンテンツの作成
14. 宅配業者の選定と配送料・支払い方法の決定
15. マーケティング戦略
たとえば大きな課題のひとつとなったのが、この日本ならではの出版事情だった。とくに出版社と書店をつなぐ「取次」と呼ばれる流通業者の存在が大きな力を持っていることが、世界標準の書店アマゾンの日本進出のネックとなっていた。日本では大手取次を押さえなければ、豊富な品揃えはむずかしい。とくに人気の書籍を配本してもらうには、大手取次との取引が不可欠だった。
ベゾスからのミッションは「和書を50万点以上在庫せよ」
ちなみに立ち上げが決まったあと、シアトルのジェフ・ベソスから与えられたアマゾン ジャパンのミッションには、「和書を50万点以上在庫すること」もあった。「地球上で最も豊富な品揃え(earth’s biggest selection)」を自らの武器としてきた他ならぬアマゾンCEOからの、直接至上命令である。
“A bookstore too big for the physical world.(物理的な世界には大きすぎる書店)”と書かれた、「地球上で最も豊富な品揃え」を誇るアマゾンらしいグッズ。アマゾン ・ドット・コム初期1998年頃のもの。
一方、書籍は「多品種少量生産」の王道を行く商材であるだけに、その品揃え、すなわちカタログ(商品データベース)を豊かにする上で、国内の取次との契約(再販契約と、販売価格維持契約書への署名)は緊急にして不可欠の命題であった。また、在庫上の品揃え、すなわち「availabiliry(入手可能性)」の確保も急務だった。
国内取次は主に7社だったが、「こちらには選択権などない。とりあえず1社でも、付き合ってくれるところを探さねば」というのが実際のところだった。
たとえば、書店・取次間の受発注、出荷、請求、支払いなど各種電子データを通信および伝送し、パソコンで自動的に処理する物流システムである「EDI」ひとつを取っても、日本の書籍流通業界は「JTRN」で規格が決まっていた。だが、アマゾン ジャパンは米国ドット・コムが採用している米国国家規格協会(ANSI)や国際標準(EDIFACT)を使う必要があったのである。取次の多くはこのデータの交換方法を変更してまで取り引きする気はなく、「アマゾンの方で日本仕様のJTRNに合わせるのが当然」というスタンスのところがほとんどだったという。
https://forbesjapan.com/articles/detail/28589