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2019.08.08 08:00

コードネームは「Brazil(ブラジル)」|アマゾン ジャパンができるまで 第4回


当時、出版業界におけるマーケットリーダーである紀伊國屋書店や丸善はすでにオンラインストアを立ち上げており、それに追随する状況だった上、アマゾンには紀伊國屋書店や丸善といった「日本の出版業界におけるブランド力」が皆無だ。しかも実店舗を持たず、Eコマースでしか戦わない外資系書店と取引することは、業界各社にとってかなりギャンブルに近かった。

加えて、「アマゾンが採用している米国標準のEDI規格でのデータ交換方法に受発注を行わなければならない」などという条件がつけられていたのだ。手を挙げる取次が現れること自体がむしろ「事件」といっていい。

しかし、である。そんななか、「アマゾンさんとやりましょう」と言ってくれる取次が現れたのである。取次業界3位の「大阪屋」だ。




長谷川が保管していた大量のローンチ時資料から。当時の戦略や会議メモがびっしり書き込まれた長谷川自身のノート

大阪屋と契約したことで、カタログを豊かにする以外にもメリットが得られた。東大阪の「iブックシティ」という倉庫で書籍を「単品管理」していた大阪屋とEDIでつなぐことで、流通中のタイトルに対して「2~3日で発送」の入手可能性が担保されたのである。なお、売れ筋本は「24時間以内に発送」の表示ができるよう、アマゾンのディストリビューション・センターに在庫した。

「桜の咲く頃作戦」━━コードネームはBrazil(ブラジル)、Nile(ナイル)

もうひとつ、あらゆる場所で立ち上げメンバーたちを悩ませた大きな課題に「立ち上げまでアマゾンであることを明かせない」というものもあった。実際、国内外から注目されていたアマゾンの日本市場進出準備は、ローンチ直前まで、経過をほとんど公開することなく秘密裏におこなわれていた。長谷川は回想する。

「ローンチ時の驚きと感動が重要とされ、いつサイトを立ち上げるかさえ極秘事項。立ち上げ日は11月1日に決まっていたものの、在庫を調達してくれる取次や、本を買う出版社にも具体的な日にちが言えず、『桜の咲く頃作戦』などと呼んでいたこともありました。また人材の募集でさえ社名を明かしてはできないことがほとんどだった。社外の取引先に訪問する際には、Brazil(ブラジル)、Nile(ナイル)などのコードネームを名乗っていました。また、オフィスにはEmerald Dreamsという看板を掲げていました」


長谷川の当時のノートから

隠せば隠すほど、真実を明らかにしたいという力も大きくなる。こんなこともあった。

倉庫に入庫を開始するため、9月中旬、書籍購入に先立って主要な出版社に挨拶周りを行うこととなった。大手新聞社の出版部にも訪問。その動きをメディア担当の記者が察知し、社長の長谷川にピンポイントで話を聞こうとし始めたのだ。そして、大倉山にある自宅近く、横浜の環状2号沿いに泊めた車で、記者からの夜討ち、朝駆けの取材攻勢にあったという。


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文=石井節子/福光恵 構成=石井節子

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