yutori代表の片石貴展
yutoriの強みは「補い合える」こと
バーチャルモデルエージェント事業は、「古着女子」などのEC事業とのシナジーはあるのだろうか。
ちなみに前述のミケイラやimmaは、運営元を明かしていない。しかし、その正体不明さが奇妙な神秘性を醸し出し、人間とバーチャルの境界をより一層曖昧にしている一因になっている。
言わずもがな、バーチャルモデルは人間のモデルと同じくブランディングやイメージが重要である。今回所属を発表した2名のモデルはyutoriの既存事業と毛色が異なるため、今回のリリースによって企業イメージとバーチャルモデルのイメージが紐付けられてしまい、シナジーどころかネガティブに作用する可能性も考えられる。
それについて訊ねると、「既存事業とのシナジーは考えていないです。ブランドイメージの問題もネガティブには捉えていないし、むしろこれは僕たちの決意表明で」と片石。
「僕はモデルのキャラクター設定や技術的な部分に関して統括はしているものの、細かい部分には一切関与していないんです。yutoriのコアバリューは、色々な人たちを巻き込みながら、自分たちに足りないところを補い合うことができること。今回も、それぞれの領域に強い人たちを会社の外から集めて協力してもらっています。これは世界初のバーチャルモデルエージェンシー設立の発表であると同時に、yutoriとして周りの人々を巻き込みながら新たなクリエイティブに挑戦していくことの宣言でもあるんです」
今後の課題は、現実と虚構のバランスだという。人間と違い、バーチャルモデルは恋愛もしなければ老いもせず、死ぬこともない。そんなある種の“人間臭さ”がないバーチャルモデルに、どこまで人間臭さ、人間らしさをプラスしていくか。「興ざめする違和感か、気になる違和感かはすごく重要。人間を限りなく忠実に再現しようとすると嫌悪感を抱くようになる“不気味の谷”問題については、今後も考え続けなければいけません」
エージェントとして、今後はバーチャルモデルのプロデュースやマネジメントに注力していく予定とのこと。現在はグローバルに向けて強いメディアを持つ企業と協業の話も進んでおり、日本発バーチャルモデルエージェントの世界展開に向けても視界良好だ。
いまや様々な加工アプリを使った、バーチャル空間での「整形」は当たり前。日常的にSNSに投稿されている人物の写真が、現実なのか否かさえわからなくなってきている。そんななかで、VIMに所属するバーチャルモデルたちがテレビやスマホ越しに、実在する俳優やモデルたちと並んで登場する未来はそう遠くないはずだ。
そんなときがきても、テレビを眺めながら、ふとした瞬間にまたきっと「この人たちって、本当にこの世に実在するのだろうか」などと考えるのだろう。そのとき画面に映っている人は、本当にこの世に実在しない人物かもしれない。VIMが牽引していく現実と虚構が入り組んだ世界、少し不気味だが、楽しみでならない。