日本の高度成長期からバブル時代まで、終身雇用は、年功賃金とならんで、日本型経営の根幹をなすものとして称賛されてきた。新卒で大企業に就職すると、一生、その会社(あるいは関連会社)で勤め上げることが、期待されていた。長期雇用関係を前提に、会社は従業員にいろいろな部署を経験させるようなローテーションを組み、特定の業務の専門性よりも、社内の総合企画・統率力を鍛えていた。若手の頃は多くの残業が期待され、労働投入に見合う賃金は支払われない。
入社以来の年数に応じた昇進を繰り返し、おおよそ45歳前後から労働投入価値を上回る賃金が支払われるようになる。さらに会社を定年退職するときには、大きな退職金が支払われて、生涯賃金に大きく貢献する。年齢に応じた賃金上昇に加えて、勤続年数に応じた退職金が支払われるため、ようやく生涯賃金は生涯労働投入価値に追いつくことになる。退職金が視野に入るあたりから、労働者は会社にしがみつく(中途退社は考えない)ことになる。
「後払い賃金制度」とは、終身雇用による長期雇用を担保にする制度である。会社からみると、従業員が若いうちは、多くの従業員が生産性以下の賃金で働いてくれて、こんな良い制度はない。従業員が年を重ねると(おそらく45歳程度)、一定の割合は幹部に上りつめていく。本社での昇進競争に敗れた者たちも、関連会社の幹部などで「処遇」され、生涯賃金と退職金は、十分に生涯労働投入の価値に見合うものだった。このシステムを約半世紀にわたって継続できたのは、日本の会社とその企業グループが膨張をつづけたからである。
バブルが破裂して、1997年の銀行危機では、それまで破綻することは考えられなかった大銀行、大証券会社、大企業が破綻した。このあたりから「終身雇用」でも、会社が破綻すると、従業員には大きな(生涯所得としての)損が発生することがわかってきた。つまり、会社の命が従業員の命よりも短ければ、終身雇用は意味を持たない。