いろはにほんプロジェクトで座禅を体験する参加者
VIPの「嫉妬と憧れ」
一方で、有識者会議では、日本国内での海外の富裕層の誘客について課題も浮き彫りとなった。小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長は、国内の5つ星ホテルの数について「(3年前の調査では)日本では28カ所だが、タイには110カ所、バリ島だけでも42カ所あり、日本は数が少ない。富裕層についてはそれぞれの要望も多く、5つ星ホテルのコンシェルジュのように最も高度な対応ができる人材が必要だ」と言及。「国内では観光庁や文化庁が様々なコンテンツを用意しているけれど、多言語対応や空港の改革など、基礎ができていない中での受け入れは危険」と指摘した。
富裕層の外国人観光客のアテンドサービスを手掛ける2dkCo.,Ltdのディヴィッド・ディヒーリ代表は、仁和寺への受け入れも支援している。「海外の皇室やユニコーン企業の人たちは、代理店を通さず、直接情報収集して日本を訪れようとする」と明かした。なぜそこまでして彼らは日本に興味を持つのか。「下品な言い方をすれば、ズバリ嫉妬と憧れです。口コミで周りにどう広がるかが鍵になります」
さらに夜分など緊急時に(あるいは、スーパーマーケットで水や食べ物が欲しい時も)どう対応してもらえるか、が大事だという。セキュリティ面でも安全確保が必須だ。「VIP向けの旅行では24時間細かく対応できるコンシェルジュやバトラーが必要なのです」
会議の最後に、日本財団の笹川会長が仁和寺執行長に質問した。
いろはにほんプロジェクトで滞在できる仁和寺の施設内観
「仁和寺さんで(外国人宿泊者から)言われて困ったことや驚いたことはありますか」
「いろいろなご意見を伺っています」と前置きした上で、好意的な意見としては「ヒノキのお風呂の香りが良かった」「蚊帳の中での就寝は非常に良かった」などを挙げ、否定的な意見として「浴室と洗面所の床が冷たかった」「お風呂からお庭が見たかった」「テレビが欲しい」などを紹介した。
現在、日本財団には各地の寺や神社からいろはにほんプロジェクトについての問い合わせがあり、事業拡大を目指す。観光庁が所管する日本政府観光局(JNTO)も、今月28日に富裕層旅行市場に特化した商談会「Japan Luxury Showcase」を開くなど、富裕層旅行客の取り込み強化に乗り出している。富裕層の旅行客をどこまで満足させられるか。まず基本的な課題をクリアする必要があるだろう。