第1弾は「禅 / ZEN」をテーマに2016年から京都の5つの禅宗の寺院で始まり、昨年から京都市右京区の世界遺産・仁和寺で第2弾を開始。仁和寺では一泊100万円という高値にも関わらず、昨年度は9組48人が滞在・利用し(文化体験のみも含む)、実績を作っている。宮廷文化である雅楽や御室流の華道など、観光客の興味に沿ってカスタマイズされた文化体験(別料金)が人気だ。
日本財団では東日本大震災後に、弦楽器ストラディヴァリウスの売却による寄付金約12億円を基に、被災した民俗芸能団体の祭り道具や、神社の鎮守の森の再生、社殿の再建など180以上の団体に復興支援を行ってきた。祭りや神社、民俗芸能の復興を強く望む被災者の姿を通じて、「伝統文化が日常生活に生きていること」を実感。伝統文化の保護のため、持続可能な仕組みづくりに乗り出したのだ。
いろはにほんプロジェクトでは、原則非公開の歴史的建造物に滞在しながら、他ではできない特別な文化体験プログラムを提供し、体験料の一部は寄付金として、国内の文化財保護として活用する仕組みを目指す。
6月にあった有識者会議では、笹川会長が「海外からの観光客が増える中で、日本の文化や伝統、歴史に興味を持つ方が急速に増えている。そんな人たちに名刹と言われるお寺の歴史に触れて楽しんでいただき、文化財の修復に役立てるプロジェクトを実験的に試みて参りました」とあいさつ。「果たして私たちの取り組みの必要性があるのか。海外の方に受け入れられるのか。この仕組みが京都で成功するならば、日本全国へ広げていきたい」と語った。
リノベーションされた仁和寺の「松林庵」
舞台となっている仁和寺は平安時代の888年、宇多天皇が創建した。その後も退位した天皇など皇族が、住職を務めてきた歴史がある真言宗御室派の総本山だ。寺には150棟ほどの建造物あり、3万件もの文化財を有する。実は、そのうち10%ほどしか稼働しておらず、拝観できない建物も多いのだ。
今回のプロジェクトに向けて、長く使われていなかった木造の数寄屋建築「松林庵(しょうりんあん)」を1億5600万円かけて宿泊・滞在施設にリノベーションした。改修費のうち8割は、日本財団からの助成金でまかなった。畳敷きの和室にはソファやテーブルを置き、布団も特別にマットレスを高めにして、外国人にも快適な環境にした。宿泊費100万円のうち2割は寄付し、文化財の修理・修復に使われる。
仁和寺の吉田正裕執行長は「宗教的尊厳を損なうことなく、文化財の保護と利活用に繋げられたら」と語った。今年春にも2組を迎え、これまでヨーロッパやアメリカ、カナダなどの企業のトップやVIPが宿泊した。