2本立てオペラの「課題」
東京工業大(リベラルアーツ研究教育院)で、ドイツ語やオペラの講義を持つ山崎太郎教授に、ダブルビル公演の本番を見た感想を聞きました。
「2本目の『ジャンニ・スキッキ』は、舞台装置を含めてとても面白かったです。でも前半の『フィレンツェの悲劇』は、人物の動かし方などをもっと工夫して、ドラマの焦点をわかりやすくする手があったのではないでしょうか。
また、2つ並べて上演するなら、どこかで演目のつながりが見えないと、別々にやっているように見えてしまいます。舞台はどちらもフィレンツェでしたが、つながりがもっと見えたら良かったと思います。10数年前に、『東京二期会』が同じ2本立てを上演しました。同じ建物の暗い地下室から、上の階に出たと言う設定で、つながりをくっきりと出していました」
フィレンツェの悲劇 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場
別の光で照らし出される
ダブルビルは、組み合わせによる相乗効果もあるそうです。
「『フィレンツェの悲劇』は、なかなか上演されない作品で、ジャンニというポピュラーな演目と組み合わせれば、多くの人に観てもらえる。そして悲劇の後に喜劇、という順番は、古典ギリシャ演劇の伝統を受け継いでいます。古代のアテネでは、3部作の悲劇の後で必ず、サチュロス劇という軽やかな狂言のような芝居を上演して、血なまぐさくなった舞台を清めたのです。今回のジャンニは、そういう効果もありましたね」
オペラの本場・ヨーロッパでは、2本立ては一般的なのでしょうか。
「今回のダブルビルと趣旨は違いますが、2本立て上演は行われています。普通オペラは、2〜3時間と長時間かかるものが多いです。値段設定を考えると、短編が1本では食い足りない。なので組み合わせて上演する伝統があります。この上演スタイルが普及したのは19世紀末、多くの作曲家がオペラの新たな可能性を求めて、短めの作品を書くようになって以来だと思います。
二つの作品を組み合わせると、互いが別の光で照らし出され、上演サイドとしてもおもしろい結果が期待できるでしょう」
歌舞伎のように部分的鑑賞を
観客にとっては、ダブルビルはオペラ鑑賞の敷居が低くなるのか、山崎教授に聞いてみました。
「気軽に見たいなら、ポピュラーな2時間ぐらいのものを1本見たほうが良いのでは。あるいは、歌舞伎のようなやり方を取り入れてはどうでしょうか。
例えば『忠臣蔵』はとても長く、全て上演すると丸一日かかります。そこで、一幕分だけを取り出して、他の演目と組み合わせて上演する。さらに歌舞伎座には一幕見といって、お金や時間を使えない人が、最上階の席で一幕だけ見られる制度もあるんです」
確かに、オペラも歌舞伎も、いい席のチケットは高額です。ダブルビルのように、楽しみ方を広げると共に、価格面の工夫も必要かもしれません。劇場に、様々な価格の席は用意されていますが、より気軽に見られる仕組みがあれば、オペラに親しむ機会が増えると思います。
連載:元新聞記者のダイバーシティ・レポート
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