しかし、「乗せてもらって移動できればおしまい」のウーバー(ライドシェア)と違い、お客が見ず知らずの他人の家に寝泊まりするとなると、衛生面や防犯対策、生活音など、クレームになる項目は数えきれない。「タクシー対ウ―バー」の戦いと比べると、「ホテルと民泊」の異種格闘技戦はそれぞれにとって簡単ではない。
マリオットにしてみれば、フランチャイズ権を売り、そのロイヤリティ収入で圧倒的な資金調達をして、次の買収へとそれを当てるというサイクルがあったが、民泊に参入すれば、計画的なホテル建設とは違い、いきなり自分のフランチャイジーのまわりに、ライバルを自らの手で呼んでくることになる。フランチャイジーの不満を買うことになるのは必至だ。
エアビーアンドビーのほうも、登録物件数で世界一を達成したものの、民泊ゆえの「アマチュア感」の克服があまりうまくいっていない。リビューを見ていると、「ホストのドタキャン」で泊まるところがなくなり、怒りをぶつける顧客のフィードバックが散見されるし、ブロガーのアッシャー・ファーガソンによれば、「偽の施設情報や、のぞき見、盗難、ネズミが出るなど、民泊特有の問題が年間千件に上る」と指摘している。
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民泊とホテルは違うビジネス
このような「アマチュア感」やコンプラ違反は、顧客のフィードバックによって淘汰されていくというのがこのビジネスモデルに期待されるところだが、ウーバーと違って、「ドタキャンされたら次を呼ぶ」というわけにはいかないのが宿泊業の難しいところだ。
「深い関与」なだけに、ひとつのマイナス体験のダメージは大きい。そして、悪いホストを駆逐したところで、新しいホストがどんどん参入するこのモデルでは、顧客のこうしたマイナス体験の絶対量を減らすことが難しい。
また、肝心な鍵の受け渡しも、(ホストは仕事に出ているので)ドアマットの下とか、植木鉢の皿の下とか、ポストの中に置いておくというパターンが多く、筆者も時々使ってみるが、この「アマチュア感」はいい気持ちがしない。自分がドアマットの下に鍵を返しているところを泥棒に見られていたら、いったい誰の責任になるのか?
筆者の予想では、民泊は、まもなく飽和状態を迎え、「誰か近くにプロがいる」という仕組みがあり、鍵の受け渡しや施設の説明があり、ドタキャンや想定外の不潔に対処できる体制をつくらないと新しい市場は生まれないと思う。
民泊は、低価格をめぐってホテルと競争するビジネスではない。実際、ヒルトンのクリス・ナセッタCEOはWSJの取材に答え、「民泊とホテルとは違うビジネスだと思っている」と言明している。