──昨年、インドのリバーベンド・スクールのデザインを発表し、生徒の「幸福」を高めるユニークなアプローチが注目されました。
2020年開校予定のリバーベンド・スクールの創設者は教育関係者ではなく、インドのビジネスや心理学など別の分野や産業で活躍してきた人たちです。この学校を作るときに考えたのは、最終的に人生において重要なのは、幸せだということです。それを学校で教えるべきなのです。また、自分が幸せなだけでなく、善良で社会にポジティブな貢献をできる人を育てたいとも考えました。
一般的な学校では、生徒がどれだけ勉強を詰め込めるかに多くの労力が割かれ、21世紀を生きるのに必要なスキルや一人ひとりの個性や自分がどんな人物か、ということはほとんど教えられません。そういった一人ひとりの感情や個性というものが現代の教育で欠けているものだと思うのです。
21世紀のスキルも重要ですよね。そしてその後が勉強の内容です。現代はインターネットで様々な情報に容易にアクセスできます。単に情報を頭に詰め込むのではなく、さまざまな分野の課題に触れさせ、好奇心を育てて自分が情熱的になれるものを見つけるほうが重要です。
では、幸福が重要だとして、どうやってそれを促進するような建築をつくれるのか。実はハーバード大学の科学者が何十年もかけて人々の幸福度について調べた研究があります。それによると、幸福というのは富や名声、仕事や物質的な所有物に左右されるものではなく、人間関係が最も影響している、ということが分かりました。
では、人間関係を強くするにはどうすればいいのか。文化人類学の研究が目にとまりました。それによると人間関係はより小さな村で強くなる傾向があるというのです。我々はさまざまな村がどのように発展してきたのかを調べました。実は多くの村は似通ったパターンでできています。中央に人々が集まる広場があり、その周囲に仕事や交易をする場があり、その外に居住スペース、家々が並ぶ。遊び場もこの辺りにあります。一番外側には、農地や牧草地が広がります。
このような組織的な構造が村に住む人々の社会に役立っているのならば、これを学校に持ち込んだらどうなるのか、と考えたのです。中心に広場を設置し、共通のプログラムはここで行う。次に仕事、つまり勉学の場。リバーベンドは寄宿制なので宿泊施設をその周囲に起き、レクリエーションの場や農地をさらに外側に作りました。
ニューヨークのような大都市では道がさいの目状になっており、目的地に最短距離で着くように効率性が重視されています。しかしリバーベンドでは道は有機的にくねくねと曲がったり、細くなったりしています。それによって、生徒たちはスローダウンできるのです。周りの環境に気づき、歩きながら人々と話すゆとりが生まれます。建物の角を減らして丸みを帯びさせているのも、特定の子どもが角のスペースで孤立しないようにとの配慮です。
いまあるデザインはマスタープランのようなもので、時とともに有機的に成長していきます。周囲の森や自然も残すことで、子どもたちの心の成長も助けつつ、本当に村に住んでいるような感覚で過ごせる学校を目指しました。