「報道に対する価値観が変わった」ニューヨーク時代。今も昔も変わらないのは「嘘はつかない」という決意。そんな有働が描く「来てほしい未来の姿」とは。インタビューの後編をお届けする。
【前編】怒られてばかりの入局当時──。有働由美子が組織を卒業した理由
──NHK時代には3年間、アナウンサー職のままアメリカ総局特派員としてニューヨークに赴任しました。アメリカでの経験は、今の有働さんにどう影響していますか。
ニューヨーク勤務は、物の見方が凝り固まっていた自分に気づくきっかけになりました。当時、私は文化を担当していました。
考え方が変わるきっかけになったのが、08年の米大統領選挙のときです。当時、民主党候補はヒラリーさんになるだろうとの見方が大勢を占めていました。でも、若者やアーティストの取材をしていると、オバマさんに対する熱狂が凄まじかった。「もしかしたら、オバマさんが民主党代表候補になるのでは?」との感触を得ました。まさに、現場の声を取材して回るからこそ得られた感覚です。
オバマさんが代表候補に選ばれたとき、密かに書きためていた取材メモを見せながら、「私、オバマネタあります!」と手を挙げました。このときに痛感しました。思い込みを常に疑ってかからないと、大きな勘違いをして物を見ることがあるなと。
──帰国後、10年から『あさイチ』のメーンキャスターを務めます。情報番組を担当することへの戸惑いや葛藤はありませんでしたか。
『あさイチ』に携わったことで、ニューヨークにいたとき以上に価値観が広がりました。
正直に言うと、番組に就いた当初は報道へのこだわりが強く残っていました。毎日のように、ディレクターに「このネタの社会的意義は?」と言っていましたから。「うざい!」と言われました。笑。
それまでスポーツやニュース番組を担当することが多く、世の中の動きを追っているといの自負がありました。今を伝える報道が偉くて、家事など暮らし周りの情報はそのあとだと思っていたのです。でも1億人いたら1億人分、ニュースに求める内容は違う。普通に生活していると、国会の動きよりも家族が笑顔で過ごすための情報のほうが大事なこともあると、初めて突き付けられました。