ライフスタイル

2019.04.29 18:00

「海の中」で熟成させた特別なシャンパーニュ

「アビス」のボトル。海中での熟成の様子を伝えるため、そのままの状態で販売されている。

海底で長い間眠っていたワインが、沈没船から引き揚げられたというニュースを聞いたことがあるかもしれない。海の中にあったにもかかわらず、ワインは良好な状態だったという場合もあり、ワインの熟成可能性を感じさせる話だ。

実は、こうした海中での熟成を意図的におこなっているシャンパーニュ・メゾンがいくつかある。海中では、ボトルにかかる気圧や温度、湿度といった条件が変わり、ワインは、セラーで保管されるものとは違う熟成過程を経る。

なかでも、そういった特別な商品を生み出しているのが、「ルクレール・ブリアン(Leclerc Briant)」だ。「アビス(Abyss)」というシャンパーニュは、澱抜きの後、フランスの大西洋沿岸の海中に、1年から1年半の間、ケージに入れて沈められ、熟成される。



ビオディナミ栽培の先駆者、ルクレール・ブリアン

ルクレール・ブリアンは、1872年に設立され、家族経営で引き継がれてきたメゾン。1950年代からオーガニック栽培を始め、その後ビオディナミ栽培に移行した先駆者でもある。2010年に5代目のパスカル・ルクレール氏が死去したあと、事業の継承が困難となり、所有していた畑の大部分は他のメゾンに売却された。そして、2012年に、アメリカ人の夫妻がブランドと会社を買い取った。

その後、シャンパーニュの巨匠として名高いエルヴェ・ジェスタン(Hervé Jestin)氏を醸造家に、25年間LVMHグループで事業開発に従事したフレデリック・ゼメット(Frederic Zeimett)氏をゼネラル・マネージャーに迎え入れて、ブランドの刷新を図り、再スタートを切った。


エルヴェ・ジェスタン(Hervé Jestin)氏 

人気醸造家エルヴェ・ジェスタンとアビス誕生

ジェスタン氏は、ブルターニュ地方出身で、ワイン商を営む家庭で育った。幼少期から、祖父と一緒に家業のワインの試飲に参加してきた同氏は、「ワインとの結びつきは強い。ワイン造りは天命だ」と話す。

大手のシャンパーニュ・メゾンで、長年、醸造責任者を経験したあと独立し、自身のブランドである「シャンパーニュ・ジェスタン」を興した。また、醸造コンサルタントとしても活躍し、シャンパーニュに限らず、イタリア、イギリス、スペインなど、国内外の多数のワイナリーにアドバイスをしている。

長い間、オーガニックやビオディナミ農法に注力していたこともあり、もともとルクレール氏とは縁があった。


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文、写真=島 悠里

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