圧倒的な競争優位をつくる「ネットワーク効果」とは
プラットフォームのビジネスモデルをつくる上で重要なコンセプトは、「ネットワーク効果」である。ネットワーク効果とはネットワークの参加者が増えれば増えるほどネットワーク全体の価値が高まるという経済現象だ。
たとえば、フェイスブックやインスタグラムは使っている友人や知人が増えれば増えるほど、ユーザーにとっての価値が上がる。マイクロソフトなどビジネスソフトもユーザーが多いほどファイル交換や共同作業の使い勝手がよくなり、ますます売れる。
20世紀の工業化時代では、作れば作るほどコストが下がる「供給サイドの規模の経済」が主役だった。しかし、デジタルビジネスが支配する21世紀においては、顧客と顧客のデータを獲得すればするほど市場の支配力が強まる「需要サイドの規模の経済」へと、価値が生まれるポイントが変わってきている。
プラットフォームのビジネスモデルは、この需要サイドの規模の経済のメリットをネットワーク効果を活用して最大限に得ようとする戦略でもある。
ネットワーク効果を理解する経営者は、ネットワークの参加者を増やすことに集中し、収益を後回しにする。ウーバーが行っている戦略が、まさにこれである。なぜ赤字を垂れ流して平気でいるのか、工業化時代の考えが頭を占める経営者には理解しがたいことかもしれないが、ネットワーク効果を考えずに短期的利益に走ってしまうと、長期的には大きな損につながる可能性があることを知っておく必要がある。
たとえば、ウーバーは参入した市場でタクシーよりも割安な価格を設定している(白タク規制がある日本のような市場は別として)。安くて便利であれば利用者が増え、その客を見込んだドライバーが集まる。そうすると、ドライバーも増えて配車がいっそうスムーズになるので、利用者にとってもさらに便利なサービスになる。
利用者がドライバーをひきつけ、ドライバーが利用者をひきつける双方向のネットワーク効果(ツーサイド・ネットワーク効果)が働き出すのだ。その結果、利用者とドライバー両者にとってサービスの価値が急速に高まり、売上と市場シェアが一気に拡大していく仕組みである。
ウーバーが実行しているように、プラットフォーム型のビジネスモデルで最大の収益を上げたいのなら、まずはネットワークの参加者を十分に増やすことに専念し、儲けは後回しにすべし、というのがネットワーク効果から導かれる戦略だ。
実際、アマゾンもクラウドコンピューティング事業のAWSにおいてネットワーク効果を最大化する戦略を採って成功した。導入段階において利用者を増やすために赤字覚悟でサービスを提供することに集中し、圧倒的なシェアを確立している。今やAWSはアマゾン全体の営業利益の半分近くを稼ぎ出す、同社の儲けを支える柱になっている。
もちろん、利用者が増えたとしても、いつまでも赤字でいいわけはない。ウーバーの黒字転換の鍵を握るのは、自動運転である。
ウーバーの最大のコストは、ドライバーに関する費用である。新規のドライバー募集の広告費、奨励金などコストの75%を占めている(日本経済新聞2019年1月21日記事)。もし自動運転サービスが実用できれば、ウーバーが自動車を所有することで生じる車の購入費や維持費、保険料など負担も増えるのですべてではないにしても、現在の支出の大部分を占めるドライバー関連のコストが削減されて利益が増える可能性がある。
売上高ではGMや日産の10分の1に過ぎず、しかも利益も出していないウーバーが、今年予定されている株式上場において大手自動車メーカーを上回る時価総額を見込まれているのは、市場と投資家が自動運転実現後をにらんだウーバーの収益ポテンシャルに期待しているからだ。