シェフのシグネチャーは、タイ人の妻の実家で初めて食べたという、ピータンのつくり方を応用したアヒルの卵料理だ。伝統的にピータンはアヒルの卵を粘土と乾燥させた籾殻と塩を混ぜたものに包んで土の中で1カ月以上寝かせてつくるが、シェフは、同じ味わいとテクスチャーを、塩水に3週間漬け込んだ後に低温調理することで実現している。
使うのはもちろん自家農園の卵で、更に農園からのラクサリーフやタマリンドリーフ、プーケット産のアワビの出汁を合わせている。どこか、フランスの伝統的なクレソンなどの緑野菜のソースに卵を合わせた皿を思わせる味わいだ。
このシグネチャーの卵料理にペアリングするのは、「タイでもっとも信頼できる醸造家」と語るタイ人の2代目女性醸造家ニッキ・ロフィタナヴィがつくるナチュラルワイン、「グラン・モンテ」のヴェルデーリョ(ポルトガルの白ぶどう品種)だ。
ワイナリーはバンコクから北東に車で2時間ほど行った場所にあり、自家農園で栽培したぶどうでつくっている。「きちんと土地の味を表現するため、天然酵母を使うナチュラルワインだが、品質も安定している」とオフォーストシェフも評価する。熱帯気候のタイで育ったぶどうだけに、酸も穏やかで、緑の味と豊かな果実味が卵のコクに合う。
地元の人との協働という意味では、自然を感じるツアーも考えている。農園内にキッチンをつくり、自分で収穫した野菜を自分で料理するという体験も企画中だ。
ミシュランの掲載店でもあるもうひとつのレストラン、「シーフード@トリサラ」では、この道20年以上のキャリアを持つタイ人のクラ・プラコブキットシェフが、伝統的なタイ料理をつくっており、1908年から続くタイの古典料理のレシピをそのまま再現したスープや、タイの家庭に代々伝わってきた「ママの味」にインスパイアされた料理など、独自のタイ料理を供している。
また、地元の市場に出かけて自分たちで食材を選び、プラコブキットシェフのレシピをもとに、パッタイやグリーンカレーなどの定番のタイ料理をつくる料理教室も行われていて、より体験的に料理を楽しむこともできる。将来的には、日曜のブランチのタイミングで、前出のローカルフードの店を、週替わりで招いてのポップアップも展開したいという。
積極的に外部のものを取り入れていけば、そこには常に新しさが生まれ、地元と協働することによって、「リアリティのある」体験につながる。ここに、リゾート界のレジェンドと呼ばれるラークが考える、「変わり続けるリゾート」の最新の形があるのだ。
地元との協働は、経済的な還元にもなり、地域の産業をサポートすることにもなる。プーケットでも、農業大学などを出た若い後継者たちが、オーガニックの野菜づくりなどを始めており、オフォーストシェフは頻繁に生産者を訪れては、野菜の育て方などを学び、コミュニケーションを深めている。
地域と共に育ち、変わり続けるリゾート。そんな試みが、今ここで始まっている。