ビジネス

2019.04.09 18:00

日本古来の習慣が新たなアイデアを生む「見立てイノベーション」


違う産業では、西陣織を着物以外のジャンルに提供している細尾もいい例です。パリコレでミハラヤスヒロとコラボし、シャネルや高級ホテルのインテリアのオーダーが入るなど成功を収めていますが、目指しているのは「織物のフェラーリ」と自社製品の目標を高級車に見立てています。

他にもいろいろあります。「都市鉱山」なんかもそうですね。都市にある使われなくなったケータイからレアメタルを回収することで、街を鉱山に見立てる。先日の築地市場移転時の新聞記事での、魚河岸さんのセリフも粋な見立てでした。

「俺たちが売っているのは、魚ではない。信用」だと。それでこそ、長く商売を続けられ、築地を名観光スポットにしてきたのだと思います。みなさんの周りにも見立てノベーション事例、たくさんあるのではないでしょうか。

さて、この見立て。以前、我々はリサーチで、東京は茗荷谷の和菓子の名店「一幸庵」で、この見立てについて伺ったことがありました。ご主人の水上さんが、まず出してくださったのは白とピンクの2つの「きんとん」でした。冬には、白いきんとんを「雪です」とお客様に出す。すると、お客様は「わあ、雪ですね」と言って、雪をイメージして味わう。

春になると、ピンクのきんとんを「桜です」と出す。今度は「わあ、桜!」と目と舌で春を楽しまれる。実はなんと、両方とも、原材料はほぼ一緒なのに。見立てることで、受け手の味覚を含めて感覚を変えられる、お互いの想像力を生かした抽象表現が見立てだと理解しました。粋ですよね。

そこで気になるのは見立てのコツだと思いますが、その時僕が思ったのは2つ。水上さん曰く「自分が桜と言ったら桜」。送り手が言い切れば、そうなると。つまり、AはBである、と自信を持って言い切ることが大事。

もう1つは、距離感。AとBが遠すぎると意味がわからなくなってしまう。逆に、AとBが近いと、まんまになってしまい、想像力も好奇心もゼロに。遠からず、近からず。そのバランスが大事です。

○○は、△△である。自分のビジネスを、今日から何かに見立ててみましょう。和菓子職人のように。城崎温泉のように。新しいアイデアに転換でき、他から一歩抜け出し、ユニークになれるはずです。あなたは何に見立てましたか? この、粋な日本の文化的概念で、イノベーションを起こして世界を驚かせましょう!それこそ本当のクールジャパン到来だと思うんですけどね。


電通Bチーム◎2014年に秘密裏に始まった知る人ぞ知るクリエーティブチーム。社内外の特任リサーチャー50人が自分のB面を活用し、1人1ジャンルを常にリサーチ。社会を変える各種プロジェクトのみを支援している。平均年齢36歳。合言葉は「好奇心ファースト」。

倉成英俊◎電通Bチームリーダー。自称21世紀のブラブラ社員。気の合う人々と新しい何かを生むことをミッションに、公/私/大/小/官/民関係なく活動中。特に1人1人の特別な才能を世界の人類の未来のためにどう活用できるかに注力中。

文=倉成英俊 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN プリンシプル・カンパニー」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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