城崎にて。小説のタイトルのように、いま城崎温泉にて、さらにいうと志賀直哉さんが『城の崎にて』を書いた旅館三木屋にて、この原稿を書いています。来たのはこれで3回目ですが、初回からすっかりファンになりました。他の温泉地と違うユニークネスに魅了されてしまったからです。
その違いを象徴する看板が、三木屋さんの脱衣所にあります。「城崎温泉では条例により、内湯(旅館内のお風呂)浴槽の大きさに制限がございます。外湯とあわせてお楽しみください」。宿のお風呂のサイズを制限する狙い。わかりますか?
答えは、「街に出てもらう」。お客さんを1つの宿で囲い込むのではなく、外湯(街の温泉)をお薦めする。そして、お土産も街のお土産屋さんで、食事も外食してもらう。それぞれが得意分野で役割分担し、街全体で「共存共栄」する仕組みなのです。結果、観光客が浴衣に下駄でカランコロンとそぞろ歩き、風情満載の街になっています。
この考え方を説明される時に、使われるセリフがまたお洒落。「城崎温泉では、街全体を1つの旅館と見立てています」と。城崎温泉駅は宿の玄関で、道路は宿の廊下である、とも。
城崎で、温泉に浸かりながら思ったのは、ずっと注目してきたキーワードがここでも出てきたぞ、ということでした。それは「見立て」。辞書によれば「あるものを別のものと仮にみなして表現すること。なぞらえること」。
自分のサービスや商品を「○○は、△△である」と何か他のものにみなして言っているものに、成功事例が結構あるな、と気づいていたからです。見立てることでイノベーションや新しい成功を生む。この方法を「見立てノベーション」と呼んでみようかと思います。
さて、例をいくつか挙げてみましょう。まずは自分が身を置く広告業界から。1つ目は、約10年前の年賀状のキャンペーン「年賀状は、贈り物だと思う」。少し略しますがコピーにはこう記されていました。「たった一枚の、小さくて、うすい紙。そこには何も入らない。
でも、そこには、あなたを入れられる。大切な人のもとへ。1年で、いちばん初めに届けられるプレゼント。」儀礼じゃなくて、年賀状を出したい。そう思った方も多かったのではないでしょうか。
次は、もっと時代を遡って「クリスマス・エクスプレス」(知らない若い世代はYou Tubeで検索!)。遠距離恋愛の恋人たちを描いた名キャンペーンは、山下達郎のヒットソングや、牧瀬里穂などの新しいスターを生み出し社会現象になりましたが、この企画書にはこう書かれてあったそうです。
「新幹線は、コミュニケーションメディアである」(実は元上司なので、本人に聞きました)。社会現象を生み出したCMの裏にあったのは、この見立てだったのです。