この連載では、新規事業開発や広告制作を手がけると同時に、本をこよなく愛する筆者が、知的欲求を辿るように読んだ書籍を毎回3冊、テーマに沿って紹介していく。第2回は、「幸せに働く」ヒントとなる3冊。
アフター5に居酒屋の暖簾をくぐると、四方八方からサラリーマンの会社や上司に対する愚痴や不平不満の大合唱が聞こえてくる。
戦後長く続いた高度経済成長期に、日本の会社は生産効率をあげるために、ニワトリを鶏舎に入れ、餌を与えて卵を産ませるかのごとく、社員をオフィスに縛り、給料を与えて社員を生産に励ませるという特性を強めていったのではないだろうか。その結果、日本で働く多くの人たちにとって、「仕事=苦行」「報酬=我慢料」というイメージが染み付いていったように思う。
こうした働き方の問題を指摘し、打開策を提案するのが、サイボウズ代表取締役社長の青野慶久氏による『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)だ。
冒頭に、居酒屋で会社に対する愚痴や不平不満が聞こえてくると書いたが、そもそも会社とは一体何なのか。
青野氏は実体がないけれど、「法人」つまり、法律上は人として扱う「『妖怪』のような想像上の生き物」だと表現している。そして、事業が成功すると、妖怪「カイシャ」の持ちものがどんどん増えていき、モンスターのように大きなカイシャになっていく。
このモンスターには実体がないので、意志もなく、何一つ行動しない。しかし、モンスターには「子飼いの代理人」がいて、「取締役」と呼ばれる。そのトップである代表取締役が、従業員に会社を辞めさせないように「我慢すればするほど、もらえるお金が増えやすい仕組み」をつくっている。
志を持ってカイシャを変える権力を手に入れるためには、たとえ取締役がイケてなくても、自分がトップになるまで上位役職者に選ばれ続ける必要があり、ここから「我慢レース」が始まるというわけだ。こうした状況は、教祖や宗教者と呼ばれる人が実体のない神を称え、信者に教えを説く宗教構造に似ていると、青野氏は形容する。
給与がもたらす幸せ=短期的?
資本主義は宗教のようなもので、「¥€$(イエス)様」が人を支配していると言うのは、ニースに本店を構えるレストランKEISUKE MATSUSHIMAのオーナーシェフ、松嶋啓介氏だ。
食に関して言えば、人は手っ取り早くおいしさを感じることができる、塩、砂糖、油の虜になるが、そのうちの「塩(salt)」は「給料(salary)」の語源であり、サラリーマンは塩のように、「すぐ快楽を得ることができる給料」により、カイシャに服従させられやすい環境にあると同氏は語る。
ところが、カネ・モノ・カタガキなどの「地位財」によって得られる幸せは、刹那的で長続きしないと解説するのが、『幸福学×経営学 次世代日本型組織が世界を変える』(内外出版社)の著者の1人で、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏である。