伝統の家族経営からCEOを引き継いだ男が挑む、緊急着陸態勢からの高度回復の策とは?
2015年1月のある木曜日、53歳だったアラン・ベルマールは、ユナイテッド・テクノロジーズのオフィスで自身の次のキャリアについて思いを巡らせていた。同社のCEOへの昇進を見送られ、さらにその日の午後、同社はベルマールが航空宇宙部門のトップを辞任することを発表した。そんな時、カナダ・モントリオール出身の旧友から1本の電話を受けた。当時ボンバルディアのCEOであったピエール・ボードワンだ。
ボードワンはベルマールに、彼の会社が危機に直面している状況を訴えた。ボードワンの父ローランは、カナダの企業ボンバルディアをスノーモービル製造の地元企業から、買収を繰り返して鉄道車両製造の大企業へと成長させた。さらに航空宇宙産業にも進出してボーイングやエアバスにも迫り、成長の過程で家族に巨額の富をもたらした。
しかし息子ピエールは、Cシリーズで失敗した。同シリーズは、ボンバルディアが初めて全てを社内開発し、リージョナルジェットとボーイング737の間のニッチな市場を狙った航空機だった。ボンバルディアは四半期で16億ドルの損失を出し、投資家らの期待を裏切った。この状況でベルマールは救世主となれるだろうか?
ベルマールの答えは「ノー」だった。しかし、数週間後の金曜日、モントリオールのこの旧友に会いに行くと、月曜日までに「着ているシャツを洗濯する店を探さなければならなかった」と、ベルマールは苦笑する。彼の妻がコネチカットの自宅から着替えを送ってきた。それから2年間、文字通り彼は家へ帰れなかった。
最大のライバル、エアバスと提携
2000年代の初め50席のリージョナルジェット、CRJシリーズで成功した同社は自信を持ってCシリーズの開発に入った。原油価格が高騰し、航空業界の再編で路線が減少する中、リージョナルジェットの市場が縮小していく懸念もあった。しかしボードワンは、エアバスやボーイングの提供する最小サイズの航空機(A320や737)とリージョナルジェットとの中間サイズで低燃費の航空機には、市場的なチャンスがあると踏んだ。
しかし彼はエアバスやボーイング側の対応を甘く見ていた。低燃費が売りだったCシリーズの利点を打ち消すため、業界の巨人たちはそれぞれ、A320と737に新型エンジンを搭載した。Cシリーズの導入を検討する航空会社に対しエアバスとボーイングは、同シリーズよりも大型の航空機をディスカウントすることで対抗した。営業のやり方や技術的な問題により、ローンチ時期が13年から15年へとずれ込み、開発コストも、当初見積もりの34億ドルから60億ドルへと跳ね上がった。
一方、ビジネスジェット部門では、リアジェット85とグローバル7000という新機種の開発で数十億ドルを無駄にし、鉄道車両部門は、ニューヨーク、トロント、スイスにおけるプロジェクトが遅れる中で業績が大きく低迷していた。