晶平さんは大学卒業後、一般企業に就職をしてから名人と呼ばれる刀匠の宮入小左衛門行平(ゆきひら)氏に弟子入りした、刀鍛冶としては変わり種の人物。2017年には日本刀文化振興協会が認定する「日本刀名匠」に選ばれるなど、注目の刀鍛冶職人の一人です。
晶平さんの夢は、品位と美しさを併せ持ち、千年の後まで名刀として受け継がれる作品を作っていくこと。伝統を重んじると同時に、より広く刀の魅力を伝えるため、アニメ「ヱヴァンゲリヲン」とコラボした日本刀展を開催するなど、斬新な解釈を取り入れるイノベーターでもあります。
刀という伝統にイノベーションを巻き起こし、どのように後世に伝えていくのか。晶平さん流の「Innovation and beyond」を見出していきましょう。
刀を鑑賞する文化は、日本独自の感性
歴史的に見て、世界中で鉄器が普及していくにつれ、どこの国でも固有の刃物・刀剣文化があります。でも、刀剣をきれいに磨き上げて鑑賞する文化は日本だけ。晶平さんは、「刀剣には、造形や内に宿る目に見えないものを鑑賞していく日本独自の文化があります。それは日本人としての誇りにもつながります」と言います。
「製鉄技術が日本に伝わってきたのは4世紀前後と言われています。みなさんがイメージする今の日本刀の姿になったのは西暦800年ごろ、平安後期くらい。その時代は、ちょうど女流文学が花開いた頃でした。ひらがなが完成して、日本人が初めて日本人の言葉で文学を表現した頃でもあります。その頃に日本刀の姿が完成したということが、すなわち日本刀に文化的側面があることを証明するのではないかと思っています」
晶平さんによると、日本刀は古来より信仰の対象でもあったといいます。お守りであり、心のよりどころという役割もありました。神社仏閣に日本刀が奉納されるのも、そうした信仰的な背景があるからです。
「こんな伝承があります。摂政の藤原道長が全盛だった頃の一条天皇は、ある夜夢を見て、『都にはびこる疫病を鎮めるための御佩刀(みはかし)を作れ』というお告げを受けました。天皇が依頼したのは、名刀工の三条宗近でした。その頃に完成した、優美な反りのある日本刀の姿には、霊力があると思われていたのです」
1000年前の刀が美しいまま残されているのは、武器として使われなかったから。武器である刀を神格化し、鑑賞して楽しむというのは日本人独特の感性なのです。
「日本刀の世界におけるイノベーションは、こうした刀を鑑賞する文化そのものなのかもしれませんね」