これからの時代、日本刀職人の存在理由はどこにあるのか、そして日本刀の世界における新たなイノベーションのかたちはどのようなものなのかを尋ねてみたところ、晶平さんは次のように答えてくれました。
「今は正直言って、刀鍛冶なんて必要ない時代です。それでも刀鍛冶がほそぼそやってこれたのは、日本刀が信仰の対象、畏敬される存在だからです。過去の名刀が存在している以上、これから造られる刀に求められるものは少ない。昭和、平成を経て次の時代が来る今、刀の位置付けそのものを変えないといけません」
そこで、晶平さんが刀のファン層を広げるために試みたのがゲームやアニメとのコラボでした。ゲームの「刀剣乱舞」や「刀剣女子」に象徴される刀のブームを最初に火を付けたのは、僕たち現代の刀工だと自負しています。
「制約があるからといって、刀鍛冶自身が創造力に限界を設けてしまっているなか、若い僕らの世代がイノベーションを担わなくてはならないのです」
日本刀に新しい価値観を作り出し、新しい時代を切り開かないといけない。晶平さんは常に未来を見据えています。
「これからの日本刀は、今活躍している感性の高い人に持ってもらいたいんです。宣伝をしてプレゼントしまくる手もあるんですけど、その人が刀と出会い魅せられ所有するストーリーも必要なのかなって思うんですよね。刀を持ってもらう『人』にこだわりたい」
だからこそ、「刀剣乱舞」のようなブームとはまたまったく違う流れを作らなければならないと、晶平さんは強調します。
「刀が持つエネルギー、造られた時代の空気、手にした時の高揚感といったようなものを感じ取れる刀を生み出す。刀鍛冶として伝統も守りつつ、新たに『信仰の対象』となるようなものを造っていかかなければならないと思っています。人間が造るモノでありながら、神格化されるモノ。信仰の対象を造る難しさはもちろんありますが、喜びもあると思うんです。
僕は若者に対して、刀を触れていただけるようなキッカケをつくってきましたが、やはり最終的には、僕の作品が、高い感性を持つ今の人たちが所有したくなるような、最高級のブランドにしなければならないと思ってるのです」
晶平さんは、私と同世代。50歳の節目を超えて新しい世界に大きな一歩を踏み出していると強く感じました。
過去の制約をただ嘆いたり、簡単に捨てるのではなく、これから何百年にもわたって、人の心を掴んでいくような歴史を自ら作っていく。晶平さんの作品は、歴史の一部になるという大きな目標に向かって進化し続けていくと確信しました。
私は実際に晶平さんの鍛刀場に出向き、刀に命を吹き込む空気を体験してきました。今回の記事で刀の魅力を少しでも引き出せたら本望なのですが、実際に触れてみたら、きっとその力に圧倒されることでしょう。
髪の毛1本分の反りや幅の違い、ミリ単位、ミクロ単位の違いで、日本刀を美しくさせ、人を感動させるものにもなる──そんな晶平さんの作品に皆さんも触れてみてはいかがでしょうか。
連載:エリック松永の”Innovation and beyond”
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