地球温暖化が騒がれても、便利な生活に慣れた人は、オゾンホールや二酸化炭素の問題にはあまり目をむけたくなかった。しかし、気がついたら、もうバヌアツやモルディブはかなり水没していた。それでもまだ真実を見たくない。なぜならまだ今と同じ生活をしていたいから……。
マーケティングで個人情報がターゲットにされるのは、この地球環境問題と同じだ。今は便利だからいいだろうと思っているけれど、その裏ではじわじわと個人情報が管理され、利用されていく。アル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領が訴えた地球環境問題に対しての「不都合な真実」に因んで言えば、これはマーケティングの「不都合な真実」だ。
もちろん、理由付けがどうであれ、個人的には「自分にピッタリ」な商品がオススメされるほうがずっと便利な世の中だと思う。アマゾンのオススメ商品が気にならない人なんていないはずだ。しかし、問題は、そういった「あなたってこういう人ですよね!」という情報が、どうやって企業や国家に渡り、どのように使われていくのかだと思う。
国家に関してはまだまだ実感は薄いが、企業の話であればわかりやすいだろう。私たちは知らず知らずのうちに企業に自分の情報を渡して、企業が「人間はどうしたら財布の紐を緩めるのか」を研究する手助けをし、そのかわりにポイントなどのちょっと「便利」と思う還元を受けているのだ。もちろん、分析の段階では個人が特定される情報が使われているわけではない。
しかし、ひとたびその結果を使ってパーソナライズされたマーケティング活動が行われるときには、個人のデータに基づいて、企業はアクションを起こしている。そして、我々は「メールを登録して、アンケートに答えてくれたら何ポイント」など、データ提供する際に受けたちょっとした利益の何倍ものお金を、結果的に渡すことになる。
でも企業側もこの流れを止めるわけにもいかない。すでに第3次産業革命はもう終わり、マーケティングは個別最適が当たり前の時代に入っている。消費者も、自分へのおすすめ商品が隣の人と同じなはずはない、と期待をしている。だから、パーソナライズされたマーケティング活動ができなければ企業は勝ち残れない。その世界では、データ量とその扱いのノウハウで勝負は決まるため、勢い寡占が進む。
GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が巨人になったのは、世界中で個人データを集め、いわゆるネットワーク効果と経験曲線でデータをうまく扱って、「クリックしたい」と思わせるマーケティング活動を極めてきているからだろう。
そして、この研究と応用の過程で、顧客はデータを知らず知らずに渡し、その自分が渡したデータに基づいた働きかけを受けて渡したデータの対価以上のお金を取られてしまう。実はこれが、マーケティングの「不都合な真実」の最大のものと言えるかもしれない。