「マスマーケティングの時代は終わった。これからは、エンゲージメント・エコノミーの時代だ」
基調講演でそう宣言したのは、同イベントを主催するマルケトCEOスティーブ・ルーカス。壇上で、マーケティングの未来を予見する大胆な発言を次々と放ち、会場につめかけた満員の聴衆を沸かせた。マルケトは世界39カ国・5000社以上の企業にエンゲージメントマーケティングプラットフォームを提供しているデジタルマーケティングのリーディングベンダー。同社を率いる彼に、デジタルマーケティングの現在、そして来るべき未来について聞いた。
「距離、言語、文化……テクノロジーが人類の営みを妨げてきた“障壁”を取り除き、我々の歴史を大きく前進させてきたことは、言うまでもない。しかし、そうした進歩が一定の水準に到達した今、テクノロジーの発展が、“人間らしい暮らし”を、むしろ阻害しているのではないか」
そう問いかけるルーカスは、近年急速に発展する「デジタル環境」の現状を、とりわけ危惧している。
「SNSのユーザーは、10年前にはこの世界にまったく存在しなかった。しかし、今ではフェイスブックという“たったひとつのアプリケーション”に、19億人ものユーザーがいる。この驚くべき変化のインパクトを、私たちは再認識しなければいけない」
高度に発展したデジタル環境の中を飛び交う膨大な量の情報は、人々を圧倒し、人と人とのつながりを希薄にした。ルーカスはそう考えている。IDC発表の「THE DIGITAL UNIVERSE in 2020」によれば、全世界で作成・複製されるデータは、10年の1.2兆GBから、20年には40兆GBへと増加。世界は、さらなる情報過剰の時代へと突入する見込みだ。
情報が増えることの問題は何かー その核心は、情報の「量」が増えることで、人々が受け取る情報の「質」が低下することにある。検索履歴をもとにした単純なリターゲティング広告など、企業がマーケティング目的で日々発信する情報も、「量」を増やし、質を下げる一因を担っている。
「『マーケティングされたい』と思っている人は、一人もいない。しかし、誰もが『エンゲージされたい』とは思っている」
つまり、人々は企業からメッセージが送られていること自体を嫌がっているわけではない。自分に価値のある情報だけが、欲しいのだ。
「これからのマーケターの役割とは、適切な時に、適切な情報を、適切な人に、適切なチャンネルで届けること。そうしたコミュニケーションを続けることで、顧客との間に育まれるものこそが、『エンゲージメント』である」
ルーカスがそう断言する背景には、こんなデータがある。実は、83%のマーケターが「顧客とエンゲージメントを構築することができている」と考えている一方で、51%の顧客は、企業との関係性に満足していないというのだ。