思想の中心からデザインする
ではこれからはどんなことが大切になってくるのか。私は「売る人をつくるデザイン」が重要性を増すのではないかと考えています。私はこれを「宗教伝播型モデル」と呼んでいますが、ここで重要なのがデザイナーを含むデザインマインドを持った人々です。個人の社会への想いや価値観を引き出し、自分の思想=宗教のコアを明確化するには、言語化と可視化、体験化は強力な武器になります。
さらに、参加型でファンを巻き込んだコミュニティを作っていくことで、強い思想が充満し、濃度が高まるとその思想が漏れ出して周囲にも伝播していくという理想の形が作れるのではないかと思います。
もうひとつ、今後考えるべきなのは思想の伝え方です。最近弊社では、企業紹介のためのブランドブックを作りました。私たちの思想を色や写真、テキストの表現に落とし込んだものです。「いまの時代に紙で?」と思われるかもしれませんが、私はいま改めて紙媒体の価値が高まっていると感じています。なぜなら、紙の媒体はブランドにとっての「聖書」になりうるからです。
物理的な紙に思想を落とし込むことで、世界観はより伝わりやすくなり、半永久的に残り続けていきます。同様に、教会のような、思想を語り、自分ごと化していくリアルの取り組みは、ネット完結の企業にとって重要な取り組みになるでしょう。
また、最近韓国や中国では「モノを売らない店舗」が増えているそうです。リアルな店舗はショーケースと化し、そこで見たり試したりしたものを、あとでECを通じて買うことが一般的になりつつある。私は、その店舗のあり方がまるで「教会」のように感じました。
企業や商品、サービスに込められた思想や世界観の純度が高い空間にどっぷり浸かることで、伝播の深度も速度も変わっていくはず。聖書と教会、これが今後の「新しい売り方」を考える上で重要な鍵となるでしょう。
佐宗邦威◎BIOTOPE 代表。イリノイ工科大学デザイン学科修士課程修了。P&G、ソニーを経て、同社を設立。大学院大学至善館准教授、京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。