ビジネス

2019.02.19

売り方の新潮流 店舗は「教会」に、ブランドは「宗教」になる

oneinchpunch / shutterstock

ECの普及に伴い、店舗のあり方も多様化し、ものの「売り方」にも変化が起きている。かつてのように広告も効かなくなった今、どうしたら消費者を引き寄せられるのか?

Forbes JAPAN 2月号「世界を変えるデザイナー39」の一人にも選ばれたBIOTOPE代表、佐宗邦威に「売り方」の新潮流を聞いた。



最近、よく聞くようになったD2C。Direct to Consumerの略で、特にECサイトにおいて自社商品を自社の販売チャネルで販売するモデルのことですね。ユニクロに代表されるSPAの概念が生まれ、企画から販売までを一気通貫で行うモデルが出てきましたが、D2CはEC版SPAと言えます。

2月号の特集内でも取り上げられているワービー・パーカーはいまやユニコーン企業のひとつですし、エバーレーンアウェイなども有名。彼らは上手な世界観の発信や手厚いホスピタリティなどでユーザーを掴み、ファンコミュニティを醸成している企業です。

なぜいま、D2Cがトレンドになっているのか。ひとつはマーケティング的な観点、もうひとつは人々のマインドの変化です。

企業に人格を求めるようになった

私は2002年から08年までP&Gで働いていたのですが、当時は4大マスメディア(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)に続き、インターネットを前提としたB2Cモデルのオンラインマーケティングが徐々に出てきた時代。消費者の嗜好性の多様化にインターネットやスマホの普及が重なり、単純な広告が消費者に効かなくなり、消費者やユーザーを巻き込んで共創をする「コミュニティマーケティング」という考え方が生まれてきました。

商品やサービスと、その周りにいる人々との関係性が重要視される、つまりコミュニティエンゲージメントという概念が生まれると、「商品・サービスと人」ではなく、それに紐づく「会社と人」との関係性が近くなります。

すると人々は会社に「人格」を求めるようになり、その人格に共感した人々は価値観≒思想に対してお金を払うようになってきた。こんな大きな流れの中で、企業は自身の思想をいかに発信していくかを求められるようになってきています。

D2Cモデルで成功している企業は、「人が人に売るマーケティング」ができています。いわば、個人商店で販売する小商いですね。自社で作ったものをダイレクトに消費者へ届けることができるため、思想を伝えやすい。だからこそ、人々を惹きつけるブランドが増えているのではないかと考えています。

ではなぜ、彼らは「人が人に売るマーケティング」ができているのでしょうか。これにはもうひとつの理由である、人々のマインドの変化が関わっています。

実は、先に挙げたワービー・パーカーやエバーレーンの創業者はみなミレニアル世代なのです。インターネットやデジタル技術などの環境が当たり前に整っている時代に育った世代にとって、「デザインマインド」、つまり自身の思想や構想を形にして世に問うことがクールな生き方にもなっています。
 
PCとレーザーカッターだけで自分のプロダクトを作るなど小さな規模でものづくりをできる人々が増え、個人レベルで売買することができる環境も整った創造性の民主化は、破壊的イノベーションだったと言えます。それまでは安かろう、悪かろうだったマイクロものづくりに、デザインの力によって思想の可視化=ブランド力が付与されることで、プレミアムな価値を提供できるようなりました。

上記を踏まえるとD2Cはごく自然に生まれた、時代性とマッチしたモデルなのではないでしょうか。サブスクリプションをはじめとした課金システムのイノベーションが、今後さらにこの動きを後押ししていくと思います。
次ページ > 「紙媒体」が持つ可能性

構成=フォーブスジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 世界を変えるデザイナー39」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事