遺伝子レベルでの変化は、長期的な影響を及ぼすものだ。研究結果は、大量の飲酒をすることがより強いアルコールを欲することにつながっており、健康を完全に害するような悪循環から抜け出せなくしているのかもしれないと指摘する。
米国立衛生研究所(NIH)はビンジ・ドリンキングについて、「血中アルコール濃度を0.08g%(100mlの血中に含まれるアルコール量が0.08g)以上に引き上げる飲み方」と定義している。
この血中アルコール濃度には、およそ2時間に男性が5杯、女性が4杯以上飲めば達するとされる(1杯は純アルコール14 gを含む量の酒、アルコール度数が約5%のビールなら355mlに相当)。
米疾病対策センター(CDC)によれば、成人の6人に1人が月に4回程度、ビンジ・ドリンキングをしている。私たちが考えている以上に、多くの人が飲み過ぎていることは明らかだ。
暴飲でDNAが変化
研究チームは飲酒量が中程度、過度(ビンジ・ドリンキングをする人を含む)の2グループについて、飲酒行動のコントロールと関連があるとみられている2つの遺伝子、「PER2(ピリオド2、体内時計を司る))」と「POMC(プロオピオメラノコルチン、ストレス応答を調節する)」について調査した。
追跡調査の結果、後者のグループにはいずれの遺伝子についても、DNAのメチル化と呼ばれるプロセスによる変化が起きていることが確認された。最も飲酒量が多いグループには、遺伝子がタンパク質を合成(遺伝子発現)する速度の低下が見られたのだ。つまり、ビンジ・ドリンキングはこれらの遺伝子を「発育不全」にしていると考えられる。
さらに、参加者にアルコールと関連のある画像を見せたり、ビールを見せ、その後に試飲してもらったりする実験を行い、飲酒に対する欲求の程度の変化を測定した。その結果、過度の飲酒をしている人たちに見られたアルコールが原因の遺伝子の変化と、飲酒に対する強い欲求には関連性があることが分かった。
この研究で得られた結果が正しいとすれば、ビンジ・ドリンキングは私たちの飲酒量を制御している遺伝子の「セキュリティシステム」を停止させていることになる。欲求に対する制御が効かなくなり、私たちを変化させているアルコールそのものをより強く欲するようになっているということだ。
この研究結果をまとめた論文の最終著者である米ラトガース大学ニューブランズウィック校のディパク・ダス教授は、「私たちは、過度の飲酒をする人は飲酒に対する欲求をさらに高めるよう、自らDNAを変化させている可能性があることを発見した」と語る。
「この結果は、アルコール依存症が特に依存性の強い疾患である理由を説明するものになるかもしれない。さらに、アルコール依存症の新しい治療法や、依存症になるリスクがある人の発症を防ぐ方法を見つけることにも役立つ可能性がある」
今後はこの新たな研究結果を再現したり、その他の遺伝子が変化する可能性について調査したりするための、さらなる研究が行われていくことになるだろう。
研究結果は先ごろ、「Alcoholism:Clinical&Experimental Research」に掲載された。